研究目的である液晶構造を形成する水溶液中で形成される水分子の動的構造を明らかにした。メゾスコッピックな構造を形成するハイドロキシプロピルセルロース(HPC)水溶液では、凍結温度以上で観測される水は凍結温度以下で一部は結晶化し、一部は過冷却状態を保っている。過冷却状態を保つ水の運動は最も高周波数側に観測されるh過程に寄与する。この水の緩和過程は凍結温度以上ではVogel-Fulcher型の温度依存性を示すが、凍結することでArrhenius型の温度依存性を示す。この特徴は、純水のガラス転移機構で予言されるVF-Arr転移を示唆するものである。一方、液晶構造を形成する水溶液では、凍結温度以下においても多くの水が過冷却状態を保っている。この過冷却水の運動はm過程に寄与する。HPC水溶液で観測された過冷却水の寄与する緩和過程の特徴は、これまで報告されている高分子水溶液中の過冷却水の示す特徴とよく一致しており、水分子が高分子鎖から空間的に拘束された状態にあることを示唆する。従って、過冷却水の分子ダイナミクスは溶液の液晶構造の形成に独立で、溶媒分子の種類に依存しないユニバーサルな特徴である。一方、メゾスコッピックな構造を形成するHPC水溶液で観測されたl過程のメカニズムを明らかにするために、低分子量水溶液の誘電緩和測定を実施した。この緩和過程がメゾスコッピックな構造下でフレキシブルな状態であるHPC分子の側鎖の運動の持つ疎水性に関係性があると結論付けた。以上のように、液晶構造を形成する水溶液中で形成される水分子の時間的分子ダイナミクスと空間的構造の多様性が明らかになった。
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