研究課題/領域番号 |
24740294
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
宮崎 牧人 早稲田大学, 理工学術院, 次席研究員 (40609236)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アクトミオシン / 細胞骨格 / 自己組織化 / 分子モーター |
研究概要 |
アクトミオシンバンドルの力学的安定性の検証:アクトミオシンゲルの力学的安定性を検証する実験系を構築した。幅・深さ共に数ミクロン、直径が細胞サイズのリング状流路を作製し、その中に精製したアクチンとミオシンを密閉した。動態の顕微鏡観察を行い、ミオシンの濃度が高いとアクトミオシンの密度分布が不均一になって凝集する現象を見出した。不均一化するミオシン濃度は流路の直径にも依存することがわかってきた。この結果は、アクトミオシンバンドルの力学的安定性はミオシンの濃度(生化学的条件)だけでなく、システムサイズ(物理的条件)にも依存することを示しており、細胞骨格の制御において細胞の大きさや形状も重要であることを示唆している。 多様な秩序構造の自己組織化と制御:アクトミオシンとバンドル化因子を細胞サイズ液滴内に封入し、非平衡状態の下で形成されるパターン構造を調べた。アクチンとミオシンの濃度比とバンドル化因子の濃度に依存して、アクチン繊維が液滴内壁に配向したネマチック構造、メッシュ状の構造、リング状のバンドル構造など多様な構造が形成された。これらの結果は、アクトミオシンの活性度(実効的な濃度)とバンドル化因子の発現量の制御によって、様々な形態の細胞骨格が形成できることを示唆している。 基盤技術の開発:モデル細胞系にはアクトミオシンを内包したリポソームを用いる計画である。当該年度では界面通過法によるリポソーム作成法の開発及び定量的評価を行い、リン脂質の組成とリポソーム形成効率の関係等を明らかにしつつある。また、アクチン繊維の極性分布がアクトミオシンバンドルの力学的安定性に及ぼす影響を調べるため、当該年度ではアクチン繊維の極性を制御する基盤技術開発を行った。プラス端に特異的に結合するタンパク質を用いて、アクチン繊維の極性を揃える技術を確立した(学術論文に掲載予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究実施計画では、細胞骨格を包括するモデル系としてバンドルの境界条件と溶液組成を正確に制御できる実験系を構築し、人工的に形成・分解の制御を行うことが目標であった。当該年度の前半ではMEMS技術を用いてミクロンサイズのリング状流路を作製し、ウサギ骨格筋から精製したアクトミオシンを封入した実験系を完成させた。この実験系は流路の形状や封入するアクトミオシンの濃度の制御が容易で、一枚のスライドガラスに多数の流路を配置出来ることから、定量的且つ網羅的な解析が可能となった。顕微観察により、初めは一様であったアクトミオシンバンドルが次第に不均一化して凝集する過程を明らかにし、不均一化する生化学的及び物理的条件の検証もある程度行なうことが出来た。特に、不均一化する条件がシステムサイズに依存するという結果は、細胞サイズの微小系に特有の性質と考えられ、本研究の達成目標である従来の細胞生物学的及び生化学的研究では明らかにされていない、アクトミオシン集合体の物理的性質を一つ明らかにしつつあると言える。 初年度に予定していたアクトミオシンバンドルの形成・分解の双方向制御とヒステリシスの有無の検討は達成することが出来なかった。一方で、最終年度の研究実施計画を前倒しで行い、最終年度で必要な基盤技術を確立することが出来た。最終年度では1)細胞分裂装置である収縮環機能の人工発現、及び、2)細胞の形態維持のための梁構造であるストレスファイバー機能の人工発現を目指す予定であるが、1)に関しては、細胞サイズの油中液滴内でアクトミオシンのリング状バンドルが自発形成する条件の検討と、高濃度のタンパク質を内包した油中液滴をリポソームに変化させる基盤技術の確立、2)に関しては、アクチン繊維の極性を制御する基盤技術の確立を行なうことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で構築した微小流路の実験系を用いて、アクトミオシンバンドルの力学的安定性における境界条件とシステムサイズの依存性の定量的解析を継続して行う。続いて、初年度で予定していたアクトミオシンバンドルの形成・分解の双方向制御と、形成・分解の過程におけるヒステリシスの有無の検討は達成することが出来なかったため、翌年度での達成を目標に研究を進める。まずは、微小流路を密閉するのではなく半透膜で蓋をする技術を確立することを第一目標とする。それと平行して、半透膜の外側の溶液組成を自在に制御出来る溶液交換装置の開発を行なう。アクトミオシンの各種阻害剤の濃度を徐々に変化させて、アクトミオシンバンドルの形成・分解の繰り返しの制御を行い、アクトミオシン集合体が持つ分岐構造の解明を目指す。 続いて、アクチン繊維とミオシンの分子間相互作用を基盤とした数理モデルを作成し、シミュレーション及び、可能ならば線形安定性解析によって実験結果の定性的再現を目指す。特に、アクトミオシンバンドルの力学的安定性のシステムサイズ依存性、境界条件依存性を数理モデルで再現することを目指す。 最終年度で実施予定であった収縮環機能の人工発現に関する研究は、特に順調に進んでおり、達成されれば物理学のみならず生物学及び工学的インパクトが大きいので優先的に研究を進め、次年度内での完成を目指す。また、収縮環機能の人工発現で必要な基盤技術であるリポソーム形成法に関する基礎的データを集めて、リポソーム作製手法に関する論文も1編完成させることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度で構築した微小流路の実験系を発展させ、様々な流路の形状(境界条件、システムサイズ)で実験を行うために、流路の鋳型であるフォトマスクと光硬化性ポリマーを購入する。微小流路内の溶液交換を行う装置を開発するために、必要に応じてシリンジポンプ等の装置を購入する。ウサギ骨格筋からのアクトミオシンの精製、アクチン繊維の重合・脱重合ダイナミクスを制御するタンパク質の発現系の構築と精製、及びそれらのタンパク質を観察するための蛍光色素などの試薬とアクトミオシンの各種阻害剤を購入する。収縮環機能の人工発現系の研究においてはリン脂質等の試薬を購入する。高分解能での顕微鏡観察のために各種光学部品を、実験データの解析のための専門パソコンソフト、実験・解析データの保存のための大容量記録媒体を購入する。数理モデルの数値シミュレーションのためにワークステーションを購入する。当該分野の理論的研究はフランスやドイツ等のヨーロッパの研究グループが中心に行われているため、ヨーロッパ各国に出張して一流の理論的研究者と議論を行う。細胞骨格に関する専門的知識を得るために、各種専門書を購入する。
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