研究課題/領域番号 |
24740313
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研究機関 | 独立行政法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
利根川 貴志 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (60610855)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 地震波干渉法 / モニタリング / 海底地震計記録 |
研究概要 |
プレート境界のモニタリング手法の開発に向けて、まず、東北地方沖アウターライズに設置された広帯域地震計の記録を用いて、海底堆積物内のS波異方性構造のモニタリングを行った。 この広帯域地震計は、日本海溝から150-350 km付近の北西太平洋に3台設置されており、観測期間は2010/8-2011/8の一年間である。したがって、2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震(M9)の記録も含んでいる。本研究では、この広帯域地震計記録に地震波干渉法を適用することで反射波を抽出し、また、この地震によって海底堆積物中の地震波速度が変化したかどうかを検証した。 結果では、まず、海底堆積物の底からの反射S波を継続的に抽出することに成功した。また、その反射S波の走時はS波の振動方向によって変化していることが明らかになった。この走時の変化は堆積物中の異方性を反映しているものと考えられる。次に、この走時の変化を一年間モニタリングした。その結果、東北地方太平洋沖地震によって海底堆積物中の地震波速度が遅くなっていることがわかった。また、異方性の方向(速いS波の振動方向)は変化していなかった。 さらに、この異方性を含めた地震波速度の変化を、クラックモデルを用いて解釈した結果、東北地方太平洋沖地震の震動によって海底堆積物中に海水が流入し、堆積物中に内在するクラックが楕円球から球体に近づいたことが明らかになった。これは、地震によって太平洋プレートに引張応力がかかったと考えることができる。 これらの結果は、国際誌JGRに受理された。この手法をDONET記録に適用し、継続的な地震波を抽出できれば非常に有用だと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の研究では、地下の構造を等方性媒質と仮定して、地震波速度構造の時間変化を推定する研究を行っていた。その意味では、異方性を含めた構造モニタリングの手法を開発できたことは、地震波干渉法の分野の発展に対する貢献度は非常に大きいと考えられる。また、これまでの研究では、東北地方太平洋沖地震による震源西側の構造の時間変化の研究は、陸地の記録を使用して精力的に行われていたが、東側の結果が得られたのは初めてであったので、その意義も大きい。 上記のように、手法開発とその有用性は実証できたが、当初予定に挙げていた地震・津波観測システム(DONET)下の不連続面の検出と、プレート境界からの継続的な反射波の抽出がまだ行われていない。これは予想していた以上に付加体上部で観測される地震波形が複雑で、明瞭な反射面の推定が困難であることが原因である。これらの問題に対して、「今後の研究の推進方策」に今後の対応策を述べる。
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今後の研究の推進方策 |
DONET記録を用いた海底下の反射面の推定がやや難しい可能性がある。これは、遠地地震や日本周辺で起こる近地地震を使用してみての感想である。しかし、紀伊半島沖では多数の規模の小さい地震が起きている。本研究では、今後、この地震から得られる地震波を用いて、海底下の地震波速度不連続面の推定を試みる予定である。これらの地震波、規模は小さいが短周期成分を含んでいるので、詳細な構造のイメージングに使用できる可能性があると考えられる。 また、モニタリングに関しては、現在、短周期海底地震計の記録を用いて海中・海底下・海底の波動場がどのような波動場になっているのかを調査中である。もしこの研究の結果から、海底堆積物の構造を反映するような地震波を抽出できることがわかれば、地震波干渉法をDONET記録に適用することで、海底下の構造の時間変化を抽出することが可能となる可能性もある。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた論文出版の請求が次年度になったため、その分を持ち越す。また、次年度の研究費の使用用途は、当初予定していた内容と変更がない。しかし、今後の研究内容によっては、計算量が飛躍的に増大する可能性もあるため、計算機を補強することも検討している。
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