バックプロジェクション法(以下、BP法)は、計算の簡便さや処理速度の速さといった利点がある一方、推定されたイメージの物理的な意味ははっきりしていない。そこで、BP法で得られた結果から物理値を推定する方法を開発した。まず、すでに地震Moが推定されている地震についてコーナー周波数よりも低周波側の波形を用いて、断層面上でのスタッキング波形を計算する。つぎに、スタッキング波形のエネルギー(絶対値の和)を計算し、それとMoとの間の変換係数を求める。この変換係数は、放射パターンや幾何減衰の効果が補正されていれば、アレイに固有の係数となる。そこである地震で得られたエネルギーに、この係数をかけ合わせることでMoを推定できる。震源距離を30~100㎞、深さを30~200kmまで変化させ理論波形を用いた検討を行ったところ、変換係数は震源距離が近いほど、また震源の深さが浅いほどばらつきが大きくなることが分かった。これは、表面波等の後続波の影響によるものと考えられる。しかし、そのばらつきによるMoの推定誤差はせいぜい2倍から3倍程度であり、インバージョンなどと比較して悪くはない。BP法の強みである速報性という観点からは、十分な精度であると考えられる。 またBP法を用いた解析の問題点の一つとして、必ずしも観測点アレイのアレイ応答関数がデルタ関数的でないことや観測点の数が十分でないなどの理由から、ノイズが効率的に除去できず、得られる震源イメージにゴーストが入るこむ場合があることがあげられる。そこでセンブランスを計算する際に、チャンネルごとに振幅を足し合わせる際にN乗根をとり足し合わせた後にN乗する、Nth root stackの手法を取り入れる計算手法を開発した。これによって、単純にスタックするよりもコヒーレントな波が強調され、振幅は大きいがコヒーレントでない波による影響を小さくすることができた。
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