研究概要 |
平成 24 年度は, 雲対流の 3 次元的な運動を計算可能とすべくモデルの改良を行った上で, 小規模な予備的数値実験を行った. 数値モデルの改良においては, これまで木星大気を想定して開発を進めてきた水平鉛直 2 次元の雲対流モデル (Sugiyama et al., 2009) を拡張し, 3 次元の雲対流モデルとして再構成した. 計算に現れる積雲を実際に木星型惑星で観測されている積雲と比較検討し, さらに木星型惑星の大規模な縞帯構造の影響を考察するためには, 3 次元的な運動の取り扱いが必須である. 雲解像モデル内の配列を 3 次元に拡張し, Y 方向の運動方程式を組み込み, X 方向と Y 方向の両方に対して MPI 並列した. 改良した雲対流モデルの妥当性を検討するための予備的実験として, Sugiyama et al. (2009) と同様に, 対流圏界面付近に現実の木星とは異なる強い放射冷却を与えた雲対流の長時間数値計算を実行した. 統計的平衡状態での凝結成分の鉛直構造と対流運動の様相が Sugiyama et al. (2009) と整合的であることを確認した. さらに, 土星・天王星・海王星大気に関する予備的実験として, 1 つの積雲の生成消滅をシミュレートすることを目的とした数値実験を行った. 各凝結成分の雲の凝結する高度が従来の鉛直一次元の熱平衡計算(例えば Atreya and Romani, 1985) から予想される高度と整合的であることを確認した. 研究成果公開の手段の中心に, 所属する惑星科学研究センターの知見アーカイブ (https://www.cps-jp.org/~mosir/pub/) を位置づけており, それを拡張・整備することで積極的に利用した.
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今後の研究の推進方策 |
平成 24 年度に改良した雲解像モデルを用いた数値実験を実行することで, 雲の生成消滅が繰り返された結果として自然に現れる統計的平衡状態としての雲対流構造を求める. 木星・土星においては水とアンモニアの凝結と硫化水素アンモニウムの生成反応が, 天王星・海王星においてはこれらに加えてメタンの凝結が生じるので, これらの凝結・反応が大気の成層構造の決定を通して流れ場や平均的大気構造に与える影響を議論する. さらに, 得られた結果を鉛直 1 次元の平衡雲凝結モデル (Atreya and Romani, 1985) の結果や, 同様の設定で行われた水平鉛直の 2 次元の雲対流計算(木星大気については例えば Sugiyama et al., 2011) と比較することで, 3 次元的な運動を考慮することで始めて得られる大気構造の特徴を議論する. 数値実験は, (1) 放射の代替として与える熱強制の大きさを段階的に現実的な値に近づけた数値実験, (2) 観測的によく制約されていない物理量, 例えば凝結成分気体の存在度, に関するパラメタ実験, の順に行う. 熱強制の大きさを現実的な値に段階的に近づけるのは, 木星型惑星大気に働く放射強制は小さく, 現実的な放射強制の大きさを用いると統計的平衡状態が得られるまでに非常に長い積分時間が必要となってしまうためである. 雲対流構造の定性的特徴がほぼ変わらないケースでの熱強制の大きさを把握することが, パラメタ実験を現実的な計算機リソースの中で実行するために必要である. なお, 木星以外の惑星大気については, 対応する水平鉛直 2 次元の数値計算を実行するところから始める. これまでの研究において, それらが実行されていないためである.
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