研究実績の概要 |
平成 26 年度は雲解像モデルの改良および数値実験を実施した. 木星・土星・天王星を想定した水平鉛直 2 次元の数値計算を実行することで, 準平衡状態での雲対流の特徴を得た. 土星条件と天王星条件の計算結果は、メタンの雲の有無を除き定性的に似ているため, 以下では土星条件の結果を示す. 土星条件の計算結果の大きな特徴は, 強い対流が発生する時期において湿潤対流層 (0.1 < p < 10 bar) の上部に強い下降流が多数見られることである. その大きさは 50 m/s 程度である. 湿潤対流層では H2O 雲の雲底付近と対流圏界面付近を除く広い範囲で鉛直速度の歪度が負となっていることからも, 湿潤対流層上部において下降流が卓越することは明らかである. 強い下降流が存在するという特徴は, 狭くて強い上昇域と広くて弱い下降域によって特徴づけられた木星条件の計算結果と対照的である. 土星条件において下降流が卓越するのは以下の 2 つの理由による. 1 つは対流運動が対流圏界面付近の冷却層 (0.1 < p < 2 bar) によって駆動されるためである. もう 1 つの理由は, 対流圏上部の温度は木星大気よりも土星大気の方が低温だからである. 土星大気では H2O の凝結がより下層 (高圧) で始まる. 木星大気の H2O 凝結高度は約 4 bar であるのに対して, 土星大気での H2O 凝結高度は約 10 bar である. 湿潤対流層の上部では H2O 混合比がほぼゼロとなるため, その高度領域では H2O の凝結潜熱の寄与が小さくなり, 狭くて強い上昇域と広くて弱い下降域という湿潤対流の特徴が失われる.
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今後の研究の推進方策 |
木星・土星・天王星のそれぞれについて, 長時間の雲対流計算を実行することで, 統計的平衡状態での平均的大気構造および流れ場の描像を得る. これまでの研究 (Sugiyama et al., 2009, 2011, 2014) と同様に, 系を水平鉛直 2 次元に限定した長時間の数値積分を実施する. さらに, 特徴的な時刻を複数選んで水平鉛直 2 次元の数値計算結果を初期値とした 3 次元の数値実験も実行する予定である.
数値計算の実行においては凝結性成分気体の存在度をパラメタとして扱う. また, 本実験では放射は陽に解かず, 放射強制の代替として水平一様で時間変化しない熱強制を与える. 得られた結果を元に, 鉛直一次元の平衡雲凝結モデルの結果との比較検討を行い, 運動や雲微物理過程を陽に扱うことによって初めて得られる平均的大気構造の特徴の抽出と解釈を行う. それと同時に数値実験によって得られた結果の比較検討を行う. 具体的な議論のポイントとしては以下が挙げられる. 1) 得られた平均的大気構造と流れ場の凝結性成分気体存在度に対する依存性を議論する. 2) 天王星では CH4 の凝結に伴う安定層の強度は H2O の凝結に伴うものより大きいことが予想されているため (Sugiyama et al., 2006), その安定層が平均的大気構造や流れ場に与える影響を議論する. 3) 木星以外の惑星においても積雲活動が間欠的に生じるか否かを確認し, 間欠性が存在する場合には Sugiyama et al. (2014) で議論した間欠性のメカニズムが共通であるか議論する.
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