研究実績の概要 |
土星と天王星の雲層において実現しうる流れ場と平均的大気構造を掌握するために, 放射を模した一様冷却下で雲対流の長時間の数値計算を実行し, 雲の生成消滅が繰り返された結果として実現する統計的平衡状態での雲対流構造を得た. 用いる数値モデルは本研究課題で開発した雲解像モデルであり, 木星型惑星大気において凝結・化学反応すると考えられている複数の凝結成分 (H2O, H2S, NH3, (天王星では CH4 も加わる)) を陽に扱うことができる. 統計的平衡状態に至るまでの積分時間を節約するために, 系を水平鉛直 2 次元に限定し, 現実よりも比較的強い冷却を与えて対流運動を加速した.
得られた結果はこれらの惑星においても準周期的に活発な雲対流運動が生じることを示した. 対流運動が活発な時期では, 強い積雲が連続的に発達し, 対流圏界面付近では各成分の雲粒の混合が生じる. 対流活動が静穏な時期では, 各成分の雲層が鉛直方向に分かれて存在する傾向がある. この明瞭な雲対流運動の準周期性は, 活発期に積雲内で発生する H2O の凝結加熱による温度上昇が一様冷却によって瞬時に解消されないという事実に起因する. また, 得られた結果は各凝結成分の持ち上げ凝結高度に形成される安定層が対流運動に対する境界として作用することを示した. 土星では H2O の凝結に伴う安定成層が, 天王星では H2O と CH4 の凝結に伴う安定層が, 流れ場に対する定常的な境界として作用する. NH3 の凝結に伴う安定層は対流活動が弱い時期にのみ境界として作用しうる. このような流れ場の特徴のために, 時間・水平平均した H2S, NH3 蒸気の混合比はそれぞれの持ち上げ凝結高度ではなく H2O 持ち上げ凝結高度から高度と共に減少を始めるのに対し, CH4 蒸気の混合比は持上凝結高度までほぼ一定となる.
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