研究課題/領域番号 |
24740317
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黒田 剛史 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40613394)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 火星 / 水循環 / 同位体比分別 / 大気大循環モデル / 惑星大気における雲生成 / 大気力学 / 国際研究者交流・ドイツ / 国際研究者交流・スウェーデン |
研究概要 |
申請者が開発してきた火星大気大循環モデル(DRAMATIC MGCM)を用いた、火星大気中の水循環および水同位体分別(H2OとHDO)のシミュレーションを行い、水同位体比の季節・緯度変化についてはこれまで の観測や先行シミュレーションと概ね整合する結果が得られた。最近の観測から指摘されている、最大で飽和水蒸気量の10倍以上にも及ぶ過飽和の効果についてもシミュレーションによる検証を行い、これらの成果を惑星圏研究会、Mars Recent Climate Change Workshop、日本地球惑星科学連合大会、COSPAR、International Symposium on Atmospheres of Terrestrial Planets(招待講演)、AOGS、EPSC、Rocks 'n' Stars、3rd Conference on Terrestrial Mars Analoguesの各学会で発表した。 合わせて、火星の気候の様子に大きく関わる二酸化炭素の相変化に着目し、特に冬の北極域における二酸化炭素大気の凝結(降雪)・季節極冠生成と この季節に顕著な傾圧不安定波などの大気波動との関連性についてDRAMATIC MGCMを用いた研究を行った。その結果、大気中の二酸化炭素氷雲の生成は傾圧不安定波による規則的な温度変化の影響を大きく受け、また高度20km以下の大気中で生成した二酸化炭素氷雲の一部が地表面に降り積もって季節極冠の生成に寄与することを示唆した。この結果は大気圏シンポジウムにて発表したとともに、投稿論文としてまとめ、Geophysical Research Lettersより出版予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
火星の水循環については、同位体比分別も含めてシミュレーション結果に進展が見られ、数多くの学会で発表を行った。また、観測・測器開発・データ解析チームのメンバー、および地質学者など地球惑星大気科学の専門家に限らない人々との意見交換を活発に行うことができ、今後の研究展開について彼らとの協力も視野に入れたアイデアの整理につながったことは大きな進展と考えている。 また、並行して行った火星における二酸化炭素の相変化・氷雲生成の研究は、水循環の鍵を握る水の氷雲生成の考慮に関連づけることができる。膨大な計算量を要さず大気大循環モデルへの導入に適した水の氷雲生成スキームの作成・改良にあたり、二酸化炭素氷雲の生成および降雪プロセスのシミュレーションに対して行った試行錯誤の結果を今後活用していきたいと考えている。 以上より、地面・表層と大気の間の水の出入りについての研究はまだこれからという段階ではあるが、全体としての研究の目的達成に向けた進展状況はおおむね順調といえる。
|
今後の研究の推進方策 |
現在は火星の水循環に関わる成果について論文投稿準備中であるとともに、地面・表層と大気の間の水の出入りについてMGCMへの導入を進めている。また、最近の火星大気研究においては重力波など小規模な大気擾乱の効果が特に注目されており、それらのより正確な導入のためにMGCMの高分解能化を進めている。 今後はそれらと並行させて、水循環およびそれを決定する大気温度場と地表面温度分布、その放射効果が温度場に大きな影響を与えるダスト分布のデータ同化に着手する。1999年以降、NASAやESの周回船によって火星の大気温度場・地表面温度・ダスト・水蒸気・氷雲の分布について観測データが連続的に取得されており、それらをMGCMに取り込むことで観測データの隙間を埋め、将来探査ミッションにも活用可能な再解析データを作成する。DRAMATIC MGCMを用いた火星データ同化については既にスウェーデン・チャルマス工科大学と共同研究に向けた準備に入っており、今後本格的な同化に着手する。また必要に応じでMEx-PFSおよびMRO-MCSのチームとデータについての議論を行う。 さらにH2OおよびHDO循環に重ね合わせる形で、DRAMATIC MGCMへの光化学反応スキームの導入に取り掛かる.光化学反応は表層から中層大気にかけての水循環過程と大気散逸の効果をつなげるにあたって重要な部分である。必要に応じて私が長年に渡り研究協力関係を構築しているドイツ・マックスプランク研究所の惑星大気化学モデリングチームの協力を得ながら進めていく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度に予定していたワークステーションの購入を、スーパーコンピュータの空き状況などを考慮して必要ないと判断し取り止めたため、274,243円の次年度使用額が生じた。これは次年度に予定している研究に使用するノートパソコンの購入、および国内学会参加・打ち合わせのための旅費の補助に充てることにする。
|