研究課題/領域番号 |
24740322
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研究機関 | 苫小牧工業高等専門学校 |
研究代表者 |
二橋 創平 苫小牧工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (50396321)
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キーワード | 熱塩フラックス / 海氷厚 / 沿岸ポリニヤ / 南極海 / 北極海 / オホーツク海 |
研究概要 |
南極海で人工衛星に搭載されるマイクロ波放射計AMSR-Eによる輝度温度データを用いて、薄氷厚推定ならびに定着氷検出アルゴリズムの開発を行った。これにより、約6kmの空間分解能で日毎の薄氷厚と月毎の定着氷の分布を明らかにできるようになった。この空間分解能は、従来の研究で用いられたマイクロ波放射計SSM/Iによるデータの倍である。南極海の沿岸ポリニヤ(薄氷域)や定着氷の空間スケールは約100km程度なので、AMSR-Eの空間分解能の良さは、沿岸ポリニヤや定着氷のメカニズムを調べる際、大きなアドバンテージになる。実際にAMSR-Eによる薄氷厚データとSSM/Iによるものとの比較を行ったところ、AMSR-EデータはSSM/Iデータでは解像できなかったような、岸に近くのより海氷生産量が大きい薄氷域を検出することができた。AMSR-Eよりずっと空間分解能が良いSAR(合成開口レーダー)による衛星観測データとの比較を様々な沿岸ポリニヤ行きで行ったところ、開発したAMSR-Eアルゴリズムが沿岸ポリニヤ域と定着氷域をよく検出できていることが確認できた。作成されたAMSR-Eデータを用いて、海氷生産量の見積もりも行った。従来のSSM/Iデータによるものと比べて、AMSR-Eデータは生産量の詳細な空間分布を明らかにすることができた。特に岸近くの高生産量海域をより良く解像できるようになった。これは沿岸ポリニヤにおける海氷生産量を大きく見積もる方向に働く。一方でAMSR-Eデータは、SSM/Iでは解像できなかったような定着氷を検出することができる。これは海氷生産量を小さく見積もる方向に働く。各ポリニヤにおける海氷生産量は、これらの反対方向の効果が打ち消し合って、従来のSSM/Iによるものと大きく変わらなかった。作成されたデータセットは、モデルの比較検証データや境界条件として用いることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
AMSR-Eデータを用いた薄氷厚の推定を、北極海,南極海,オホーツク海,日本海北部で行った。北極海,オホーツク海のものは、投稿論文として発表を行った。南極海では定着氷域を検出するアルゴリズムの開発も行った。南極海のアルゴリズム開発に関しては、現在論文として投稿中である。日本海に関しては、現在投稿準備中である。オホーツク海では、AMSR-Eデータを用いて推定された薄氷厚データを用いて熱塩フラックスデータセットの作成をおこない、投稿論文として発表を行った。さらにSSM/Iデータを用いてより長期間の海氷生産量の見積もりも行い、海洋(中層水)との関係を明らかにし、投稿論文として発表した(出版中)。作成されたデータセットは、ホームページで公開し、インターネットを介してダウンロードできるようにした。 AMSR-Eからは、厚さ約20 cm以下の薄氷厚しか推定できないので、人工衛星に搭載されるレーザー高度計ICESatによるデータを用いて、より厚い氷厚の推定をオホーツク海で行った。ICESatから推定された氷厚と、オホーツク海の南部で砕氷船に搭載された、電磁誘導式氷厚計 (EM: Electromagnetic Induction Instrument) により現場観測された氷厚との比較から、両者はある程度対応することが示された。また、前述の熱塩フラックスデータセットによる海氷生産量と、ICESat氷厚を用いて見積もられる海氷の総量とが対応することも示された。これらの結果は、比較的氷厚の薄い1年氷域であるオホーツク海でも、ICESatによる氷厚推定がある程度可能であることを示唆するものである。 以上から、おおむね順調に研究が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
作成されたAMSR-Eデータを用いた解析から、南極海では定着氷が沿岸ポリニヤの形成と変動に密接に関わっていることが示唆された。AMSR-Eデータからある程度信頼できる定着氷検出が可能になったが、まだ本来定着氷が存在しないような沖合に定着氷が誤って検出されることがあった。信頼性の高い熱塩フラックスデータセット作成のために、まずこの問題点を改善していく。具体的にはAMSR-Eから推測される海氷漂流速度を用いる予定である。さらに、一昨年に打ち上がった、JAXAのGCOM-W1(しずく)に搭載されるAMSR2のデータを用いて、薄氷厚アルゴリズムと定着氷検出アルゴリズムの開発を行っていく。これにより長期間のデータセットが作成可能になる。薄氷厚アルゴリズムに関しては、気象条件等をパラメータに取り込んだ、どの海域でも使える薄氷厚アルゴリズムの開発も行なっていく。オホーツク海で先行的に作成した熱塩フラックスデータセットでは、海氷生産(塩分排出)量は、AMSR-E 薄氷厚を用いた熱収支計算から、ある程度定量的に見積もることができたが、海氷融解(淡水供給)量に関しては、厚い氷厚が分からないので、海氷生産量に融解量がバランスする時間的・空間的に一定の氷厚を仮定し見積を行なった。従って融解量に関しては、いつどこで融解が生じているかを定性的に示すことはできたが、定量的な議論には問題があった。今後は、現在行なっているICESatによるより厚い氷厚のデータを用いることにより、この問題を解決し、データセットの信頼性を大きく向上させることを目指して研究を行なっていく。さらにこれを応用して他の海域でも熱塩フラックスデータセットの作成を行っていく。本研究課題は最終年度になるので、これまでの研究成果の総まとめを行っていく予定である。
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