昨年度までは計画に従って、高解像度日本沿岸モデルの開発、トレーサー流し実験によるモデル中の海水交換過程の可視化、沿岸海況に与える影響の解析を行ってきた。一方、モデル実験の解析からは、海水交換を引き起こす運動は大きく変動するため、その効果の定量的な評価が難しいことも明らかになった。そこで最終年度となる本年度は、海水交換の定量的な評価手法の開発を行ったうえで、その後、本研究計画の主目的である、日本沿岸全域の海水交換のマッピングに取り組んだ。 評価手法としては、モデル・シミュレーション内で海水の年齢を計算することで(いわゆるエイジ・トレーサー)、海水が沿岸域に滞留する期間を測る手法を考案した。この手法を高解像度日本沿岸モデルのシミュレーションに適用することで、海水交換の定量的評価を日本沿岸全域で行うことができた。結果では、北陸や北海道日本沖といった陸棚が狭い沿岸では海水交換が大きく、沿岸の滞留期間は10日程度しかないことが分かった。一方、大阪湾、有明海、鹿児島湾奥といった閉鎖性の強い湾奥では海水交換は小さく、1年近く滞留していた。日本沿岸の海水交換は地形によって多様であることは過去の研究から示唆されていたが、本研究によって初めて、その全貌を定量的に明らかにすることができた。 研究計画では、3年目の本年度は海水交換における潮汐の役割に絞って解析する予定であったが、定量的評価手法の開発と適用に時間が割かれたため、その解明は今後の課題としたい。ただし、海水交換において潮汐が大きい役割を担っていることは、定性的ではあるものの、昨年度に行った交換過程の可視化によって既に示されている。
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