研究課題/領域番号 |
24740326
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
弓本 桂也 気象庁気象研究所, 台風研究部, 研究官 (50607786)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 逆推定 / グリーン関数法 / 化学輸送モデル / エミッションインベントリ / 一酸化炭素 / 東アジア / 大気環境 / 大気汚染防止・浄化 |
研究概要 |
研究初年度である本年度は研究準備期間として,研究実施計画に明記した以下の4項目に焦点を当て研究を行った. 1「衛星観測データ」:逆推定に用いる衛星データの蓄積・予備解析を継続した.特に,MOPITT/Terra衛星搭載センサーの近赤外・熱赤外センサーを組み合わせ得られたデータの解析を行い,地上に近い高度に高い感度を持っていることを確認した.この新しいタイプの観測データは次年度の排出量逆推定実験に用いる予定である. 2「ボトムアップ排出量」および3「物質輸送モデル」:最新の排出量インベントリであるREAS Ver2を物質輸送モデルに適用し,長期計算と逆推定に用いる感度実験を行った.モデル計算結果を用いた東アジアの大気環境の解析を行い,日本へと長距離輸送される一酸化炭素の起源とその割合について,季節変化や年々変動を含め詳細に解析した.結果を論文にまとめ投稿した. 4「グリーン関数」: 観測データとモデルで得られた感度を用い,グリーン関数理論を用いて排出量の最適化を行うプログラムを開発し,衛星観測データから中国起源の一酸化炭素排出量の逆推定を行った.プログラム内では,逆推定された排出量の誤差(解析誤差)も同時に行えるようにし,結果の定量的な評価も行えるように工夫した.逆推定の結果は,従来のボトムアップ排出量には見られなかったダイナミックな季節・年々変動を再現し,他手法を用いた最新の推定結果ともよく一致した.特に,北京オリンピックや世界的な経済縮小など2008-2009に見られた大規模な経済・社会情勢の大気汚染物質排出量への影響を示すことができた.結果は大気環境学会誌に掲載されるとともに国内外の学会で発表され,高い評価を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は排出量の逆推定に向けた準備期間として設定してあり,用いる衛星データの収集とその解析,感度計算を行う物質輸送モデルの計算環境の整備とその長期積分,グリーン関数法を用いた理論の整理と解析プログラムの開発を予定していた.しかし,どの項目も予定以上の進展を見せたため,本年度中に予備実験および6年に渡る本実験を実施し,非常に有益な結果を得,論文発表や学会での報告を行うことができた.来年度はこの結果を踏まえ,新しい観測データやモデルの解像度の向上など,逆推定手法・結果の精緻化を進める予定である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の結果をさらに発展させる. 1「衛星観測データ」:逆推定に用いる衛星観測データの量と質の拡充を行う.現在のMOPITT/Terra衛星センサーに加え,AIRS/AquaやTES/Aura衛星センサーによる観測データを利用する.これによって使用する衛星データの量が3倍近くになる.また,MOPITT/Terra衛星センサーから新たに近赤外センサーを組み合わせた新しいプロダクトが発表されている.このデータは本年度の解析から,従来に比べ地表に近い高度の感度が向上していることが確認されている.特に,大都市での逆推定に大きなインパクトがあると期待できる.また,検証にもちいる観測データや期間を増やし,結果の検証を強化する. 2「物質輸送モデル」:現在の2.5x2.5度解像度から0.5x0.667度解像度にモデルの水平解像度を向上させる.これにより,モデルが細かい変動を表現できるようになることに加え,逆推定によって得られる排出量の分布もより細かくなることが期待できる. 3「期間の延長」:本年度の研究では2005-2010年の6年間を対象に排出量の逆推定をおこなった.これを延長させる.今年はPM2.5など越境大気汚染の被害が相次いで報道された.それらに対する中国の寄与および最近(今後)の推移を推定するには2011-2013年の排出量を知る必要がある. 4「応用研究」:本研究で開発された手法を一酸化炭素以外の物質やモデルのパラメータ推定に応用させる.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は結果の保存に用いる大規模記憶装置の購入,成果発表を行う為の旅費および論文投稿料などに研究費を重点的に使う予定である.
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