本年度は実際のデータを用いた排出量の「トップダウン推定」と「応用研究」に重点を置き、グリーン関数法の手法としての確立を目指した。まず中国起源一酸化炭素排出量の逆推定であるが、去年までに確立した手法をより洗練させた。具体的には、モデルの解像度の向上・基準排出量の更新・観測データのバージョンアップ・逆推定領域の再区分である。2005年から2008年までの長期逆推計の結果、2008年の北京オリンピック、2009年の世界的な景気減衰、近年の燃焼効率を反映した排出量の減少傾向が2007年以降に検出された。これは、長期観測や他研究からも指摘されていることであり、逆推計排出量が観測データを取り込むことで、より現実的な排出量の推移を表せていることを意味する。中国起源一酸化炭素排出量は157-184Tg/yearと見積もられた。また、本年度得られた逆推計排出量は、実験設定や用いる観測データの変更にもかかわらず、昨年度までの結果とよく一致していた。これは、本研究で構築した逆推計モデルおよび得られた結果の頑強性があることを意味している。本研究の結果は、国際学会の招待講演で報告されるともに、国際雑誌に投稿・査読中である。 さらに、他の大気微量物質への応用研究も行った。本課題で構築した逆推計モデルを福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性物質に適用。放射性セシウムの放出量を航空機によって得られた沈着量マップの観測データから逆推計した。沈着量観測を拘束条件にした放出(排出)量の逆推計は、他のエアロゾルを含め、世界的に見ても初めての試みである。逆推計の結果、福島県浜通りや北関東に輸送された沈着イベントに対応する放出量の細かい時間変化が再現された。本研究の結果をまとめ論文投稿準備中である。
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