研究課題/領域番号 |
24740329
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
羽馬 哲也 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (20579172)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 彗星 / 星間分子雲 / アモルファス氷 / 原子核 / 低温固体表面温度 |
研究概要 |
「低温表面で生成したH2O分子の核スピン温度を測定」するための準備として,低温表面にH2O氷を生成させる実験をおこなった.超高真空チャンバー中に設置した低温アルミ基板(8K)にO2分子を蒸着させる.次に,この固体O2にH原子を照射した.H原子はマイクロ波放電によりH2ガスを分解することで生成させた.基板に蒸着したO2分子のH原子付加反応によりH2O氷を生成させることができた(O2 + H → HO2, HO2 + H → H2O2, H2O2 + H → H2O + OH).実際の星間分子雲でも上記の反応でH2O氷が生成していることが知られている. このH2O氷を150 Kまで加熱し,H2O分子を氷から熱脱離させ,共鳴多光子イオン化法により脱離したH2O分子の核スピン温度の測定を試みたが,核スピン温度を導出するに十分なスペクトルを得ることができず,上記のH2O氷生成法では核スピン温度測定に十分なH2O分子量を生成させることができないことが明らかになった.H2O氷の厚みが増すにつれ,最表面温度が上昇しH原子が吸着しなくなり,それ以上H2O氷が成長できないためと考えられる.また熱脱離実験とは別に,キセノンフラッシュランプを氷にパルス照射することでH2O分子を8 Kの氷から光脱離させる実験もおこなったが,キセノンフラッシュランプでは光子流束が足りずH2O分子の光脱離の量子収率は共鳴多光子イオン化法での検出限界以下であることが明らかになった.25年度では上記の点を踏まえ実験手法を改良して研究をおこなう.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
24年度に行った実験から,(1)星間分子雲でのH2O氷生成班応として知られているO2分子へのH原子付加反応では実験室時間スケールでは核スピン温度を測定できるほどの大量のH2O分子を効率よく生成しない.また,(2)キセノンフラッシュランプのみでは,H2O分子が効率よく光脱離しないことが判明した.研究開始当初に計画していた実験方法ではうまくいかないことがわかったので,現在までの達成度はやや遅れているとし,25年度では実験の方向性とその方法を改良する. 研究代表者の過去の研究からH2O分子のオルソ・パラ転換が氷内のH2O分子間相互作用(水素結合・プロトンの磁気双極子相互作用)により加速され,氷が8 Kから150 Kに昇温されるあいだに,氷内のH2O分子の核スピン温度が高温(150 K)へ変化した可能性があることがわかっている.もしオルソ・パラ転換が氷内で加速されているのであれば,氷の作製方法によらず基板温度8 Kで光脱離したH2O分子の核スピン温度は基板温度8 Kを示すと考えられる.そこで25年度では,低温(8 K)での光脱離実験を手法を改良しておこなうことにし,「低温H2O氷内でオルソ・パラ転換が起きるかどうか」を明らかにする.
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今後の研究の推進方策 |
25年度では,キセノンフラッシュランプからの光をレンズを用いて基板に集光して実験をおこなう.この実験に加え,H2O分子の光脱離光源として重水素ランプを集光して照射する実験もおこなう.これらの光による非熱平衡プロセスでH2O分子を氷から脱離させ,核スピン温度を測定する.また,氷を8 Kで作製してからの経過時間と光脱離したH2O分子の核スピン温度の関係を調べ「H2O分子が8 Kの氷内でオルソ・パラ転換をすみやかに起こすかどうか」を明らかにする.またYAGレーザーの基本波(1064 nm,赤外光),二倍高調波(532 nm,可視光)や三倍高調波(355 nm,紫外光)などが光脱離用光源として使用できるかどうかも検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に繰り越した助成金は少額なので,生じた状況等特記する事項はない.下記計画に従って有効に使用する. 24年度での実験により,キセノンフラッシュランプが消耗してしまったので,新しくキセノンフラッシュランプを購入する.また真空紫外用の光源として重水素ランプおよびその電源ユニット一式を購入する.これらの光源の購入に伴い,集光するための光学部品(レンズなど)と光検出器,ならびにこれらの光学部品を真空内に導入するための真空導入端子を購入する.実験を行う際にともなう消耗品として,高純度試料ガスや,分子の核スピン温度を測定するための共鳴多光子イオン化に使用する波長可変色素レーザーを稼働させるためのレーザー色素やその溶媒,光学結晶などが挙げられる.次年度の予算範囲内ではパルスYAGレーザーを購入することはできないので,レーザー発振機メーカー・商社からデモ機を手に入れ,基本波(1064 nm,赤外光),二倍高調波(532 nm,可視光)や三倍高調波(355 nm,紫外光)などが実験に使用できるかどうか検討をする.
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