研究課題/領域番号 |
24740335
|
研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
江尻 省 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (80391077)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 共鳴散乱ライダー / 中間圏・下部熱圏 / 密度プロファイル / 温度プロファイル / 金属原子層 / イオン観測 |
研究概要 |
中間圏・下部熱圏領域の温度は、地球大気の子午面循環や、宇宙の電離大気と地球の中性大気の相互作用を理解する上で極めて重要な物理量であり、共鳴散乱ライダーは、この領域の温度を高い時間・高度分解能で測定可能な唯一の測器である。しかし、温度測定のためにはレーザー周波数を厳密に制御する必要があり、これが装置を複雑にし、設置環境や観測対象を限定する要因になっている。本研究の目的は、レーザー周波数を射出前に機械的に制御する現行手法に替わって、観測対象からの共鳴散乱信号を利用して解析時に決定する新しい観測手法を提案・確立することで、よりシンプルな装置での温度観測を可能にすることである。このために、平成24年度は、共鳴散乱ライダーシステムのうち、特に、望遠鏡を含む小型の受信系の製作と、カリウム(K)共鳴散乱線(770nm)を用いたライダー観測の受信試験を行った。さらに温度観測とレーザー周波数の校正を効率よく行える観測周波数の検討にも着手した。共鳴散乱ライダーシステムの送信レーザーの不具合により試験観測時期が当初の予定よりも遅れたため、平成25年度も引き続き観測システム(受信・分光光学系、観測制御ソフト)の改良は必要であるが、目的としている3周波観測のための準備はほぼ整った。システムの開発と試験観測の初期結果については、第17回大気ライダー観測研究会、第1回南極域大気重力波イメージングネットワーク国際会議(The first Antarctic Gravity Wave Imaging Network workshop)他、学会やシンポジウムで講演を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、共鳴散乱ライダーシステムのうち、特に、望遠鏡を含む小型の受信系を製作した。共鳴散乱信号の集光には口径35cmの天体望遠鏡を利用し、視野を絞ることと、バンドパスフィルターを通すことで背景光を減光、信号は、光電子増倍管(PMT)で受信し、トランジェントレコーダーで積算した後、PCのハードディスクに記録するシステムを製作した。共鳴散乱ライダーシステムの送信系には、現在、南極観測事業で開発中の波長可変型レーザーを借用しており、このレーザーでは、基本波でカリウム(K)の共鳴散乱線(770nm)、二倍高調波でカルシウムイオン(Ca+)の共鳴散乱線(393nm)の観測も可能である。本年度の試験観測は基本波のみで行ったため、K共鳴散乱観測(近赤外線)用のシンプルな受信光学系を用いたが、来年度の観測に向けてレンズの焦点距離やPMTの感度の波長依存性を考慮した、近赤外線と紫外線両方に対応可能な光学系も設計した。24年度はライダーシステムの送信系レーザーの不具合に阻まれ、試験観測の開始時期が遅れた。このため、引き続きライダーシステムの試験運用による、分光・受信光学系や観測制御ソフトの改良を行う必要があるが、25年度はこれらの改良作業を観測と並行して行う予定である。また、送信レーザーの観測のための最適周波数を検討するために、理論的なK共鳴散乱線(K(D1))の散乱断面積を用いたシミュレーションにも着手した。現状の共鳴散乱ライダーシステムは、特に送信レーザーについて、想定よりも出力が弱い、発信波長が種レーザーの波長と一致しない等の問題があり、これまでの検討だけでは不十分であることが分かった。25年度はレーザーの問題も考慮して、最適観測周波数の検討を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に着手した理論的な最適観測周波数検討をもとに、実際のライダーシステムの送信・受信効率等を考慮して再検討する。その結果を用いて、K共鳴散乱線ライダーによる鉛直上方の3周波観測を行う。中間圏・下部熱圏領域では平均鉛直風が0 m/sと仮定出来ることを利用して、もし0 m/sでない鉛直風速が観測された場合には、その原因は風速によるドップラー周波数偏移ではなく、送信レーザー周波数の設定値からのずれ(波長計のオフセット)であるとして、送信レーザーの正確な周波数を逆算、送信レーザー周波数を明らかにする。次に、明らかにした波長計のオフセットを考慮して、送信レーザー周波数が最適観測周波数になるように調整する。送信レーザー周波数をモニターしながら、K共鳴散乱ライダー観測を行い、データを蓄積する共に、送信レーザー周波数の揺らぎを考慮(補正)した温度導出を行う。導出した温度プロファイルを人工衛星などによる同時観測データと比較することによって、データ質、および観測・解析手法の妥当性を検証する。さらに、この手法の適用範囲をイオン観測にも拡張するために、Ca+に対しても同様の3周波観測を試みる。特に5月下旬~7月は、スポラディックE(Es)層が頻繁に発生する季節であり、これに伴うイオン(Ca+)の増加が期待できるので、この期間に重点的に観測を行う。確立した観測手法については、Webサイト等で一般に公開すると共に、国内外の学会で広く紹介、論文としてまとめて学術誌に投稿する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
■ 物品費 1,811,570円 24年度に十分に行うことが出来なかった共鳴散乱ライダーシステムの改良も含めた、受信・分光光学系の改良のための光学・電子部品(ダイクロイックミラー、ビームスプリッター、ミラー、ゲート付光電子増倍管等) ■ 旅費 400,000円(国内外での成果発表を行うための旅費) ■ その他 100,000円(学会・研究会参加登録料、予稿投稿料、論文投稿料)
|