研究課題/領域番号 |
24740336
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研究機関 | 独立行政法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
陣 英克 独立行政法人情報通信研究機構, 電磁波計測研究所 宇宙環境インフォマティクス研究室, 主任研究員 (60466240)
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キーワード | 超高層大気 / シミュレーション / 中層大気 / 電離圏 / 大気結合 / 宇宙天気 / 計算科学 / データ同化 |
研究概要 |
本研究では、これまで開発してきた大気圏-電離圏統合モデルを高精度化し、現実に観測されるSED、MSTID、LSWSなど数100kmスケール電離圏現象の再現を目指す。そして、全球統合モデルの利点を活かし、現象の全貌解明に迫る。本年度は以下の研究開発項目を実施した。 (1)-ii. 地球磁場形状に適合したシミュレーション格子の開発、(1)-iii. 高高度領域のダイナミクスの導入(差分方程式・スキームの変更): 地球磁力線に沿った電離圏プラズマの運動を安定かつ正確に再現するため、磁力線に沿ったシミュレーション格子の配置および時間微分項の導入を進めている。今年度は詳細の検討と実装を進めた。全て磁力線座標にすると磁力線と垂直な方向の輸送について計算精度が悪化することが解り、従来の球座標と磁力線座標の併用の方針で進めている。 (2)-i. モデルの検証(モデル間比較)、(2)-ii. モデルの検証(現実指向型シミュレーションの実行と観測との比較): 今年度はコードの並列高速化を進め、過去18年間分の気象再解析データを導入した大気圏-電離圏シミュレーションを行うことができた。そして、観測と比較検証を行った。中層大気においては、過去に発生した成層圏昇温とそれに伴う大気ダイナミクスの変動が再現されていることを確認した。そのうちの1つのイベントについては、米国グループとのモデル間比較研究も行った。そして、モデルに依らない現象の描像を明らかにするとともに、重力波パラメータなどの違いの影響などモデル開発の課題を明らかにした。また、電離圏においては、イオノゾンデによる観測との比較を行い、太陽活動度や太陽自転に伴う変動から下層大気に由来する変動がそれぞれ再現されていることを確認した。しかし、特に半年から太陽活動サイクルに伴う変動の振幅が観測に比べて数十%小さいことが解り、今後の開発課題が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
交付申請書には平成25年度の研究実施計画として、4つの項目「(1)-ii. 地球磁場形状に適合したシミュレーション格子の開発」、「(1)-iii. 高高度領域のダイナミクスの導入」、「(2)-i. モデルの検証(モデル間比較)」、「(2)-ii. モデルの検証(現実指向型シミュレーションの実行と観測との比較)」を挙げた。このうち、「(1)-ii. 地球磁場形状に適合したシミュレーション格子の開発」、「(1)-iii. 高高度領域のダイナミクスの導入」のモデル開発については、それぞれ5割程度進めたところである。また、「(2)-i. モデルの検証(モデル間比較)」、「(2)-ii. モデルの検証(現実指向型シミュレーションの実行と観測との比較)」については、今年度研究が進み成果が出てきている。モデル検証の結果として、「1.研究実施内容」で挙げたようなモデルの課題も幾つか明らかになっており、さらにモデルの検証と改良を継続する必要も感じている。したがって、予期しない研究の進展やモデル開発の課題の発生のため、当初の計画に比べて若干の遅れがあるが、研究としては必要な過程を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度には、平成25年度の研究実施計画のうち未完了の項目を加えて以下を実施する予定である。 (1)-ii. 地球磁場形状に適合したシミュレーション格子の開発、(1)-iii. 高高度領域のダイナミクスの導入(差分方程式・スキームの変更): 電離圏プラズマの運動を正確に再現するために、平成25年度に引き続き、磁力線に沿った格子と球座標系に沿った格子配置の併用と時間微分項を導入したスキームの開発を行う。 (2)-i. モデルの検証(モデル間比較)、(2)-ii. モデルの検証(現実指向型シミュレーションの実行と観測との比較): 昨年度に引き続き、長期間積分した現実指向型シミュレーションと観測を比較し、大気上下結合に関する現象の解析と、モデル検証・改良を行う。特に、「1.研究実施内容」で挙げた電離圏F層電子密度の長期変動に関するモデルと観測の不一致については、(1)の開発によって改善するか調べる。必要であれば、他のモデルとの比較により、原因を特定する。 (3) 数100km スケールの現象(SED、MSTID、LSWS)の再現と解析 i. SED の再現と解析: SEDは地磁気擾乱に伴って時々起る現象であるため、モデルの極域の境界条件(磁気圏対流電場、粒子の振込による加熱など)を地磁気擾乱時の設定にしてSEDの再現を試みる。さらに、入力する電場や中性風の経度分布を変えたり、地球磁場形状を仮想的に変えるなどして数値実験を行い、磁場形状がSED の発生条件に与える影響を調べる。 ii. MSTID とLSWS の再現と解析: これらの現象は地磁気静穏時に発生するため、(2)の現実指向型シミュレーションを行い、観測されるMSTID やLSWS とその特徴が再現出来るか調べる。現象を再現できたら、発生領域や伝搬性を調べ、大気波動などとの関連を解析し、発生・伝搬機構を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の後半は、所属機関の業務の関係で米国大気研究センターに滞在したため、研究を進めることが出来たが、その成果を発表する機会がなかった。 平成25年度の研究費の残額は研究成果の発表(国際学会への参加・発表や論文投稿費)に使用する予定である。
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