研究課題
若手研究(B)
平成24年度は、一機あるいは二機の衛星によるプラズマ・電磁場観測から、宇宙プラズマ中の三次元の時空間構造、すなわち空間三次元の定常構造や、空間二次元の非定常(時間発展する)構造を再現するために必要となる基礎方程式系の定式化を行い、再現手法の核となる部分の数値コードの開発を行った。まず、磁気静水圧(magneto-hydrostatic)平衡を仮定して、一衛星観測から空間二次元・非定常構造を再現する既存の手法を改良し、時間エイリアシングの影響を除去するためのコード開発を行った。実際の観測データは有限の時間で取得されるが、既存の手法ではある時間帯の時系列データが瞬間的に取得されたと仮定していた。二次元電磁流体(MHD)シミュレーションを用いたベンチマークテストによって、上記の仮定を取り除いた改良版は、従来版よりもより正確に二次元準平衡構造の時間発展を再現できることを確認した。さらに、改良した再現手法をACE衛星による太陽風中の磁気フラックスロープ構造に適用し、実際の衛星観測データの解析に利用できることを確認した。適用結果は、磁気リコネクションの効率や、大規模構造中のメソスケールの磁場構造の運動の推定に使用できる可能性があることが分かった。また、空間三次元・MHD平衡(定常)構造や、空間二次元・非定常MHD構造の再現に必要となる基礎方程式系の定式化を行った。前者の構造再現のための数値コード開発も行ったが、基礎方程式系が多数の特異点をもつことに起因する数値的な問題により、プラズマ構造を正確に再現することは難しく、今後の数値スキームの改良や、三機以上の衛星観測データを利用したデータ同化などの統計的手法を組み込んでいくことが重要であることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
二衛星観測から三次元の時空間構造を再現するための基礎開発は、ほぼ終了した。また、既存の空間三次元・磁気静水圧平衡構造を再現するための数値コードを改良し、衛星軌道周辺のより広い領域にわたって構造を再現することが可能となった。この改良の背景にある概念は、磁気静水圧平衡構造だけでなく、MHD平衡構造や時間発展している構造の再現にも応用できると考えられる。さらに、名古屋大学太陽地球環境研究所の大学院生らとの共同研究により、再現手法の自動化や公開に向けた解析ソフトの整備を開始することもできた。今後は、三衛星以上の観測データを最大限に利用するための、データ同化や情報量基準などの統計的手法や指標を、再現手法に組み込んでいく必要があると考えているが、その実装方法については検討を開始した段階である。
再現する時空間構造の次元が高くなればなるほど、宇宙プラズマ構造を正確に再現することは、数値的な問題により、ますます困難になる。今後は、高精度の数値スキームの利用や開発、緩和法などの安定した解を得る解法の導入、あるいは三衛星以上の観測データとデータ同化や情報量基準などの統計的手法や指標を組み合わせることによって、数値コードの改良をしていくことが必要である。また、例えば三次元MHD平衡構造を再現する手法の試験(ベンチマークテスト)のためには、そのような構造を記述する支配方程式系の厳密解析解を利用するのが最適である。その導出などのために、米国ダートマス大学のSonnerup教授との共同研究を継続する。また、MMSミッションが観測ターゲットとしている、MHD近似が厳密には満たされない領域や構造に、再現手法が適用可能かどうかを試験するために、プラズマの運動論的効果を取り扱うことのできる粒子シミュレーションを利用したベンチマークテストを行う。粒子シミュレーションの実行や結果の解析は、米国ロスアラモス国立研究所の中村琢磨氏が担当する。
申請当初、平成25年度は米国ロスアラモス国立研究所に1週間ほど滞在し、中村琢磨氏らとの打合せや共同研究を実施する予定であったが、電子メールや学会等における打合せによって彼との連絡を密にとることができている。そこで、代わりに平成25年度も米国ダートマス大学を訪問し、Sonnerup教授との打合せや共同研究を行う。これは、先述したプラズマ構造再現の基盤となる支配方程式系の厳密解を導出するためにも必要である。この研究滞在は、米国で開催される参加予定の学会あるいは研究会の前後に実施する。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件) 学会発表 (22件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
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