研究課題/領域番号 |
24740337
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研究機関 | 独立行政法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
長谷川 洋 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (50435799)
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キーワード | 編隊観測 / 複数衛星 / 磁気静水圧平衡 / 電磁流体力学 / 磁気フラックスロープ / 磁気圏界面 / コロナ質量放出 |
研究概要 |
平成25年度は、一機あるいは二機の衛星によるプラズマ・電磁場観測から、宇宙プラズマ中の三次元の時空間構造(空間三次元の定常構造や、空間二次元の非定常構造)を再現するためのデータ解析手法の核となっている数値コードの改良を行い、それを実際の衛星観測データに適用することにより情報抽出を試みた。また、三機の衛星による観測から、四次元の時空間構造を再現するために必要となる基礎方程式系の定式化を、ダートマス大学のSonnerup教授とともに行った。 まず、磁気静水圧(magneto-hydrostatic)平衡の仮定の下で、一衛星観測から時間発展する二次元空間構造を再現する既存の手法を改良し、プラズマの圧縮性の効果をとりこめるようになった。これにより、太陽風中で日心距離とともに膨張していくと考えられる、磁気フラックスロープ(惑星間空間コロナ質量放出現象)などの進化を再現できるようになったのが、重要な改良点である。 また、磁気静水圧平衡の仮定の下で、二衛星観測から磁場・プラズマの三次元空間構造を再現する手法を、THEMIS衛星によって地球磁気圏界面で観測された磁気フラックスロープに適用した。その結果、既存の一衛星観測から二次元構造を再現する手法よりも正確に磁場構造を再現できることが実証できた。さらに三次元磁場構造の可視化により、磁気圏界面のフラックスロープが三次元的な構造をしており、磁気圏界面の磁気リコネクションによって生成されたと思われる磁力管が複雑に絡み合い、相互作用している様子を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二衛星観測から三次元の時空間構造を再現するための基礎方程式の定式化は、ダートマス大学のSonnerup教授との共同研究により、ほぼ終了した。数値コードの開発状況であるが、これまでに、時間発展する二次元磁気静水圧平衡構造、定常三次元の磁気静水圧平衡構造、そして定常三次元の電磁流体平衡構造を再現するものについて、基礎となる部分の開発が完了した。また、米国ロスアラモス国立研究所の中村琢磨氏の協力の下、数値シミュレーション(電磁流体コードや電磁粒子コード)を用いて、開発した手法が前提とする仮定が破られている状況下でどの程度まで機能するか、試験を開始した段階である。以上の理由により、研究の目的はおおむね順調に進展していると言える。 今後は、三衛星以上の観測データを最大限に利用することにより、数値誤差を減らし、再構築結果を最適化するための、データ同化や情報量基準などの統計的手法や指標を、再現手法に組み込んでいく必要があると考えているが、その実装方法については現在検討中である。また、将来的には研究者コミュニティに我々が開発した手法を広く使ってもらえるように、手法の自動化や汎用データ解析ツールの開発を行っていく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、今年度までに開発した手法を既存の衛星観測データ(ClusterやTHEMIS衛星ミッションなど)に適用することにより再現された磁場・プラズマ構造と、衛星搭載のプラズマ・波動観測器によって得られた荷電粒子の速度分布関数や波のスペクトルなどの詳細情報とを組み合わせて解析することにより、太陽風中の磁気フラックスロープの進化過程や、太陽風と地球磁気圏の相互作用について新たな知見を得られないか調査する。また、数値コード開発の次の段階としては、二衛星観測から時間発展する二次元の電磁流体力学的(MHD)構造を再現する手法に取り組み、最終的には三衛星観測から時間発展する三次元のMHD構造を再現する手法を開発することを目指している。 我々がその場観測に基づいて行っている磁場・プラズマの多次元構造を再現するという試みと似たような研究は、実験室プラズマ科学や太陽物理学の分野において先行しており、そこで使われている技法が我々の手法の改良に応用できる可能性がある。再現する時空間構造の次元が高くなればなるほど、数値的な不安定の成長のために正確に構造を再現することが難しくなるので、他分野で使われている効果的な手法をうまく利用することによる問題解決を検討し、我々の手法に最適な技法の取捨選択と実装を行っていく予定である。 次世代の磁気圏編隊衛星観測ミッション(MMS)が、平成26年度末に打上げられる予定である。したがってそれに向けて、研究者コミュニティが我々のデータ解析手法をより容易に使うことのできるような環境を整えていく必要がある。今後は、データ同化や情報量基準などの統計的手法や指標を組み込むことにより手法を最適化していくとともに、手法の自動化や汎用データ解析ツールの開発を行っていく必要があると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は平成25年度中のデスクトップPCの新規購入を予定していたが、以前から使用し続けているものが特に問題なく稼働しており、また現在実施中の研究の要求を満たしているので、新規購入する必要がなくなったため。 平成26年度の前半に現在使用中のデスクトップPCが故障した場合には、その新規購入のために使用する。そうでなければ、海外で開催予定の学会・研究会への出張旅費に使用する。参加を想定している国際学会・研究会は9月以降に開催される予定である。
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