研究課題/領域番号 |
24740345
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宮地 鼓 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (40623062)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 層位・古生物 / 気候・環境変動 / 貝殻成長線 / 生物地球化学 / 高時間精度復元 |
研究概要 |
西太平洋低緯度海域は地球規模の気候変動が顕著に現れていると予想される海域にも関わらず,時間解像度の高い長期データが乏しい.そこで本研究では,この海域に生息する二枚貝類の日輪解析から,浅海海洋環境や気候変動とそれに対する生物の応答様式を日~季節レベルの高時間精度で明らかにすることを目的としている.本年度は,沖縄西表島およびフィリピンセブ島で採集されたマルスダレガイ科(カガミガイ,オイノカガミ)およびザルガイ科(カワラガイ)二枚貝の微細成長縞解析と酸素同位体比分析を行った.その結果,これらの二枚貝類の最小オーダーの微細成長縞は生息場の潮汐周期を反映した朔望日輪であることが確認された.これを基に貝殻断面へ日付を挿入し,微細成長縞付加様式と生息場付近で測定された環境情報と比較したところ,西表島に生息する個体(オイノカガミ,カワラガイ)の成長量は,春から夏にかけて増加,秋から冬に減少する季節変動がみられ,海水温変動の影響を大きく受けていることが明らかとなった.一方,セブ島の個体(カガミガイ)では年間を通じて微細成長縞幅は大きな変化はみられないが,酸素同位体比変動には年周期が認められた.また,中-高緯度に生息する多くの二枚貝類は,冬季の低海水温期に成長を停止させて成長障害輪(冬輪)を形成するが,本研究においては解析した全ての個体に明瞭な成長障害輪が観察されなかった.このことから,低緯度域に生息する種は年間を通じて貝殻を成長させ,年輪を形成しない可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに西太平洋低緯度域(フィリピン:セブ島,沖縄:西表島)において採集した個体を用いて,最大成長軸に沿って切断,研磨,染色を行い,デジタル顕微鏡により微細成長縞画像を撮影した(北大).その結果,①年輪は形成しない可能性が高いこと,②最小オーダーの微細成長縞は,潮汐周期を反映した朔望日輪であること,③②の解析を基に,貝殻断面へ日~年レベルの時間目盛りを入れ,微細成長縞付加様式と生息場所付近で観測された海洋環境データと比較したところ,貝類の成長は主に海水温によって支配されていること,④③と同じ個体を用いた貝殻中の酸素同位体比変動には,生息場の海水温や塩分(降水量)を反映した年周期が認められ,本年度の研究計画である室内研究を実施し,研究目的の基礎データを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果を基にして,次の研究を行う.⑤.現生二枚貝類貝殻中の微量元素組成(Ba/Ca,Sr/Ca等)および生息場から採水する海水の微量元素組成比を分析し(LA-ICPMS, ICP-OES,EPMA)(北大),古水温や塩濃度のプロキシとして利用できる指標を探る.⑥-1.微細成長縞の観察および生物地球化学分析から海水温,塩分の変動を明らかにし,台風,MJO,ENSOなどの日~数十年スケールの大気海洋相互作用の解明を試み,西太平洋低緯度域における気候・海洋環境変動を復元する.特に,浅海域の塩濃度変動は降水量の指標となると予想され,低緯度域における降水量変動について明らかにする.⑥-2.本研究では,日から数十年周期の気候変動履歴を明らかにするだけでなく,復元した環境因子と成長縞幅(貝殻成長量)との関係を議論し,それぞれの気候モード時の変動が成長量などの生活史に与える影響を見積もる.得られた結果を取りまとめ,関連学会で講演すると共に国際学術誌へ投稿し,成果の発表を行う.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定していたフィリピン,パナイ島での現生貝殻標本採集および生息環境調査のための野外調査が延期となったため,24年度の研究費に未使用額が生じたが,25年度に調査を実施するために,研究協力者と現地の情報収集や計画について連絡を取り準備を進めている.さらに,沖縄八重山諸島においても追加試料および海洋環境情報収集を行う.そして野外調査において収集した貝殻試料を用いて,順次微細成長縞解析および生物地球化学分析を進める.これらの野外調査のための旅費,室内実験の消耗品および分析費用に研究経費を使用する.
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