研究課題/領域番号 |
24740346
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
山崎 誠 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (40344650)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境変動 / 第四紀 / 浮遊性有孔虫 |
研究概要 |
大洋間での浮遊性有孔虫Neogloboquadrina pachydermaの殻形態を比較するために,まずは,予察的に分析を進めていた南大西洋のODP Site1091コア(南緯47度・東経5度)について追加の分析をおこなうこととした.試料は,10 ccを目安に分取し,凍結乾燥,秤量,水洗ののち,試料中に含まれる浮遊性有孔虫が200個体程度になるまで適宜分割し,分割試料中のすべての浮遊性有孔虫を拾い出し種の同定をおこなった.本年度は50試料を追加した.数試料で石灰質殻が脆弱な状態にあったことから走査型電子顕微鏡写真を撮影し,殻の溶解の影響を観察した.必要に応じて,別分割試料中から拾い出した標本を慎重に破壊し,殻の内側についても詳細な観察をおこなった.その結果,約0.2~0.4 Maと1.8 Ma以降で石灰質殻の溶解が進行していることが明らかとなった.これらを除いた年代のうち,浮遊性有孔虫群集には,温暖系種Globorotalia inflataの多産で特徴づけられる層準が認められた.これらに加え,Site 1091で予察的に分析をおこなっていた酸素同位体分析結果に基づくと,約0.9 Maに,亜南極前線の南方移動が推測され,Site1091付近が温暖化していた可能性が示唆された.これは,北大西洋でN. pachydrmaの殻形態が変化する時期(1.2 Ma)と必ずしも一致しない.Site1091での同種の殻形態については計測を進めているが,今後,0.9~1.2 Ma付近の環境変動と殻形態の変化について注目する必要があることが明らかになった.なお,Site U1304の浮遊性有孔虫群集と酸素同位体比変動に基づく環境変動については,これまでに得られていた結果を解析し,学会にて講演した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に用いる試料のうち,北大西洋IODP Site U1304コアは過去180万年間を時間分解能にして5000~10000年間隔(247試料)で予察的検討を終えており,環境変動の観点からはとりまとめをおこない,一部学会発表にて報告した. 一方,南大西洋のODP Site1091コアは,既に得られていた層位間隔4mないし8mで100試料の結果に加えて,今年度50試料を追加した.しかしながら,Site 1091コアでの資料追加の段階で,想定したよりも多くの層準で石灰質殻の保存不良層準が認められたため,特に,電子顕微鏡による殻の観察に注力することとした.そのため,当初予定していた,ODP Site1151コア(北太平洋)の試料入手と分析に着手できていない. 本研究課題の主要な目的である浮遊性有孔虫N. pachydermaの形態観察については,Site1091コアについて実施した.形態観察には秋田大学設置の双眼実態顕微鏡および走査型電子顕微鏡(JSM6390, JEOL)を利用した.試料の追加段階で石灰質殻が保存不良(溶解)の標本が認められたため,これまでに種の同定を終えていた100試料についても任意の層準について再検討をすることとした.その結果,保存不良層準が約0.2~0.4 Maと1.8 Ma以降に多いことか明らかとなったため,それ以外の層準について殻形態の検討を進めることとした.なお,この石灰質殻が保存不良の標本が特定の層準に集中する傾向にあることについては,Site1091でのなんらかの環境変動を記録しているとも考えられ,今後検討を進める必要がある.このように殻形態の分析に関しては,当初予想していなかった殻の保存状態についての検討により,若干の遅れをとっており,今後,重点的に実施する.
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今後の研究の推進方策 |
浮遊性有孔虫化石の種構成と形態の検討を行い,観察・計測事例を蓄積する. 1.有孔虫殻の安定酸素同位体比測定に基づく生息深度および化学環境の検討(SiteU1304とSite1051):底生有孔虫殻による酸素同位体比が,全地球的な氷床変動,つまり,氷期・間氷期リズムを示唆するのに対し,浮遊性有孔虫殻の酸素同位体比は,むしろ個体の生息した現場の水温(と塩分)を反映する.このため生息深度の異なる種別の同位体比データを得ることで,水柱での鉛直方向の環境勾配,そしてその時系列変化を知ることができる.また浮遊性有孔虫の形態変化は,生息深度の変化といった生態学的な変化に同調する事例も知られる.従って酸素同位体比測定は,浮遊性有孔虫の形態変化の原因の推測に重要な役割を果たす.測定にあたり国立科学博物館に設置されている質量分析計の利用申請を行う.測定のための試料の準備(有孔虫の拾い出しおよび前処理)に,大学院生1名(4時間×50日×1名)のアルバイトを投入する.北大西洋のSiteU1304は既に105層準について同位体分析を進めており,残りの層準の分析を行う.続いて,一部に殻の溶解が認められた南大西洋Site 1091試料は同位体分析を進めることに問題があるため,太平洋―大西洋間の比較検討を今後の主な方針とし,Site1051を集中的に分析する.試料の準備に必要な消耗品を適宜購入する. 2.形態の解析と情報収集:浮遊性有孔虫化石の形態解析や環境変動に関して,引き続き情報収集や同業研究者との意見交換等を積極的に行う.特に,前述の仏国アンジェ大学のRalf Schiebel博士のもとを訪ね議論する.同博士の所有する有孔虫形態解析システムを利用してSiteU1304とSite1051を中心に形態情報を蓄積するとともに,統計的な解析に着手する.また,その他,情報交換のために国内学会に参加する.
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次年度の研究費の使用計画 |
Site 1304とSite 1051コアの同位体測定に実施にあたり,測定のための試料の準備(有孔虫の拾い出しおよび前処理)に消耗品の購入を必要とする,その分析にために,大学院生1名(4時間×50日×1名)のアルバイトを投入する.また,国立科学博物館(茨城県つくば市)での同位体質量分析のための出張旅費を必要とする. フランス国アンジェ大学のラルフ・シーベル教授のもとで,議論および追加の形態解析をおこなうための渡航旅費と滞在費を必要とする.また,試料を運搬するために,浮遊性有孔虫試料を保管するための整理箱,形態解析のためのデジタル画像を保存するための装置を適宜購入する. H24年度に大学院生のアルバイトが確保できなかったために次年度に繰り越した助成金については,必要に応じて大学院生のアルバイトの追加雇用をおこなう.また,現在利用している形態解析用の顕微鏡デジタル画像撮影装置に経年劣化が認められるため購入する.
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