本年度は,北西太平洋の三陸沖で採集されたSite U1151(北緯38度45分,東経143度20分)の試料を入手し,過去200万年間について浮遊性有孔虫群集の分析をおこなった.その結果,Neogloboquadrina pachyderma (sinistral; S)の有意な産出は,1.17 Maに認められ,0.8 Ma以降多産した.この結果は,北大西洋のSite U1304においてN. pachyderma (S)の殻サイズが1.2 Ma以降に増加する傾向と直接的に対比はできないが,同種の産出もしくは殻サイズの増加が海洋表層環境の寒冷化に関与していることを考慮すると,1.17~1.2Maは,北大西洋と北西太平洋に共通して認められる,より寒冷な環境への移行期に相当すると判断される. また,本申請研究で主軸となる北大西洋Site U1304に認められるN. pachyderma (S)の殻形態について主成分分析をおこなった.その結果,過去160万年間を通して基本的には殻形態に大きな変化が認められないものの,0.36 Ma付近で,急激な殻サイズの増加を伴って,一時的により扁平な形状に変化する傾向が認められた.この年代はMIS (Marine Isotope Stage) 10/11境界に対比される.MIS11は,後期第四紀の中でも際だって温暖かつ長い間氷期として知られ,北大西洋付近でさえも温暖な表層水塊に覆われていた可能性が指摘されている.したがって,MIS10/11付近で認められるN. pachyderma (S)の一時的な形態変化は,Site U1304近傍での局所的な水塊の変化に対する応答である可能性が指摘される.
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