研究課題/領域番号 |
24740348
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
石田 直人 新潟大学, 産学地域連携推進機構産学地域人材育成センター, 研究員 (20534746)
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キーワード | 三畳紀/ジュラ紀境界 / 生物大量絶滅 / パンサラッサ / 放散虫化石 / マイクロCT / 三次元形態解析 |
研究概要 |
中生代三畳紀/ジュラ紀境界期には,大西洋が拡大し始める際の洪水玄武岩噴出(CAMP)に伴って大気・海洋環境が激変し,陸域・海域ともに生物の大量絶滅現象が発生している.本研究は,本邦に分布する浅海相・半遠洋相・遠洋相の三畳紀/ジュラ紀境界期の堆積物について,産する化石(放散虫・二枚貝)の群集と形態の変遷をたどることで,当時,大西洋の対極に位置していたパンサラッサ域での生物の応答について解明することを目的としている. 本課題は研究開始以前の十分な予察研究により,調査地域の地質の基礎調査は概ね完了している.平成24年度には,半遠洋相において上部三畳系Norian階から最下部ジュラ系Hettangian階までの連続性が確認されたが,平成25年度は詳細な化石群集構成を検討し,ジュラ紀最初期の放散虫化石が極めて多様性の低い群集構成からなることを明らかにした.これは日和見戦略を取るグループが,何らかの環境ストレスによって空いたニッチを占有した可能性が高い. 本課題の研究手法のうち,最も新規性が高いのがマイクロCT装置による放散虫化石殻の3次元形態解析である.この技術は平成24年度の検討により,放散虫化石殻への実用化の目処が立っていた.平成25年度はさらに高精度化への検討を進め,数100nmという極めて高い空間分解能を達成した.この解像度をもってすれば,放散虫殻の形質全てを記録することが可能になる.この成果に関して,国内学会において3件,国際学会において2件の講演をおこなった.中でも2014年1月にインドで開催されたThe 9th International Congress on the Jurassic systemでは,Outstanding Poster Presentation Awardを受賞し,国際的な場で高い評価を得ることができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は採択以前の予察研究,および平成24年度の検討を基礎として,平成25年度には概略見込みに沿った研究内容を実施できた.平成25年度は,得られた研究成果の重要性・新規性を考慮し,年度当初の予定に2講演を追加して合計5回,国内外の学会発表によって現状を報告した.中でも国際学会で受賞したことは,研究の方向性が妥当で,内容も高いインパクトがあることを示している. 本研究課題の中で新規性が最も高い反面,重要な検討課題であったのが,マイクロCT機材の放散虫化石撮影用セッティングである.平成24年度の検討で実用化の目処が立ったが,平成25年度にはほぼ完成されたシステムを構築できた.その新規性や将来の発展性は,国際的な場で高く評価された. 現時点での大きな懸案事項には次の2点を挙げる.第1点として,放散虫化石群集の分類に大変な時間と労力を要していることである.これは,三畳紀/ジュラ紀境界付近から得られたジュラ紀放散虫化石群集が,分類形質の乏しいほぼ単一のグループによって占められ,かつ,そのほとんどが未記載種によって構成されることが大きな理由である.これは本課題によって初めて捉えた極めて重要な事象であり,公表に向けて慎重な扱いが要求される.また第2点には,取得したデジタルデータをソフトウェアによって解析する,三次元形態解析を挙げる.マイクロCTによる撮影システムは構築できたが,その後のデータ解析法についてはまだ多くの検討を要する. 以上を総括して,平成25年度終了時点での総合評価を「おおむね順調に進展している。」とする.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は「現在までの達成度」の項で挙げた課題の2点の解決が優先事項となる.三畳紀/ジュラ紀境界期の放散虫未記載種の分類,および3次元形態解析法の確立とも先行研究例が乏しく,極めて多くの時間と手間を要するが,言い換えればこの研究の新規性の高さでもある.未記載の放散虫化石については,当該グループを記載した経験のある研究者にご協力いただき,分類形質の整理を進めている.また,3次元データ処理についても,最適化アルゴリズムを専門とする研究者と現在密な連携関係にあるため,ご助力いただくことにする.平成26年度は本課題の実施最終年度であるため,年度内にはこれらの課題を解決したい. 平成26年度末に開催される第14回国際放散虫研究者集会(InterRad-14:2015年3月予定,トルコ)は,本課題を総括するにあたり重要な成果公表の場と位置づけている.これは本研究テーマに合致した専門性の高い国際会議であり,関連する放散虫研究者の多くが参加することになる.ここで研究成果を公表することにより,本課題の重要性をアピールできる.さらには,研究者の国際的な連携を築くことも目指し,本研究終了後,発展的な国際的研究課題を提案する基礎としたい.このほか,国内学会として日本古生物学会2014年年会と日本地質学会第121年学術大会において,成果発表を予定している. 調査地域の地域地質に関する論文は既に投稿し,現在査読が進んでいる.また,マイクロCTによる放散虫化石撮影に関する技術的内容の論文を現在執筆中であり,完了次第国際誌に投稿する予定である.
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