研究課題/領域番号 |
24740352
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
興野 純 筑波大学, 生命環境系, 講師 (40375431)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | Ferrihydrite / ヘマタイト / ナノ粒子 / 粒径変化 / 相転移 / 原子対分布関数(PDF)法 / TEM |
研究概要 |
硝酸鉄水溶液の加熱時間を変化させ,ferrihydriteの粒径変化に伴う相転移メカニズムについて研究を行った.X線回折測定の結果,加熱直後に6-line ferrihydriteは結晶化し,加熱時間4時間でヘマタイトのピークが現れ始め,24時間で完全にヘマタイトに変化した.TEM観察では,加熱時間10分のferrihydriteは境界が不鮮明な粒形組織を示し,直径は約5 nmであった.電子回折像からは,加熱時間4時間でヘマタイトの回折点が現れ始めることが確認できたが,加熱時間10分から12時間の試料間にはっきりとした粒径サイズ変化は確認されなかった.加熱時間24時間の段階で短柱状に発達した結晶形状が確認でき,大きさは30 nmを越えていた.原子対分布関数(PDF)法による結晶構造解析の結果,原子対分布関数G(r)の減衰から導かれる粒径サイズは,加熱時間10分で3.5 nmであったが,加熱時間とともに粒径が減少し4時間では2.8 nmになった.六方晶系のferrihydriteの単位格子は,時間とともにa軸長が単調減少し,単位格子体積は減少した.一方,c軸長とFe-O結合距離,結合角度には明瞭な時間変化は見られなかった.Ferrihydriteとヘマタイトの結晶構造は,両者とも鉄の配位多面体が環状結合した構造である.しかし,ヘマタイトは6つのFeO6多面体の環状構造であるのに対し,ferrihydriteは3つのFeO6多面体と3つのFeO4多面体の環状構造である.本研究の結果,粒子が大きくなるにつれて,ferrihydriteの環状構造が収縮しFeO4多面体からFeO6多面体への配位数が変化することが,ferrihydriteからヘマタイトへの相転移メカニズムであることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の研究実施計画期間は2年間であり,初年度の研究計画は,(1) ferrihydriteのPDF 法による結晶構造解析の実施,および,(2) 第一原理計算による水酸化鉄超微粒子の結晶構造予測,そしてこれらの結果を踏まえて,(3)サイズ効果発生メカニズム解明であった.この研究計画に対して,実際にKEK-PFにて放射光X 線回折測定を実施し,散乱データをPDF 法によって解析した結果から,(1) ferrihydriteの粒径変化にともなう結晶構造変化,ならびに,(3) サイズ効果によってferrihydriteからヘマタイトへの相転移メカニズムを明らかにすることに成功した.さらに,ferrihydrite粒子の粒径サイズの変化の様子を実際にTEMによって観察し,PDF法による粒径サイズの見積もりとの比較を行うことにも成功した. しかしながら,現在初年度の研究成果を原著論文として国際紙に投稿しているが,差読者から合成試料の純度,PDF法の解析精度,TEM観察による粒径サイズの見積もりに関して等,多数の指摘を受け,現時点では受理に至っていない.さらに,研究初年度には, 第一原理計算によるferrihydriteの構造最適化も計画していた.ところが,第一原理計算プログラムGAUSSIAN の構造最適化機能を使い,PDF法によって導かれたferrihydriteの原子座標を初期値に用いて,水酸化鉄超微粒子の結晶構造予測計算を行っているが,現在の段階では,まだ収束解を得られていない.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究成果をまとめた投稿論文について差読者から指摘を受けている点は,(1) 合成試料の純度,(2) PDF法の解析精度,(3) TEM観察による粒径サイズの見積もりの三点である.まずは,これらの点に関して早急に対応する.まず,(1)について,測定試料の中に 二次生成物が混在している試料が含まれている可能性を指摘されていることから,再度厳密に試料合成を実施する.続いて,(2)については,一つの試料のX線回折測定を同様の条件で5回測定しその平均回折強度をPDF解析データに用いることで,測定による統計誤差をできる限り減らし解析精度を向上させる. さらに,(3)については,初年度の段階では,試料の加熱時間10分から12時間の間にはっきりとした粒径サイズ変化が確認できなかったが, PDF解析の粒径サイズ変化の傾向と一致する結果を得るために,試料ごとの観察点数を増やす. さらに,研究最終年度では,ferrihydriteの高温圧力実験を実施し,PDF法,第一原理計算による結晶構造解析を行って,相転移メカニズム,脱水分解反応の変化,水の存在する環境下での性質変化を調べる.高温高圧実験であることから,X 線回折測定は,KEK-PFだけでなく,Spring-8 (BL04B2)の大型放射光施設も利用する.高温圧力実験でのPDF法による解析手法やTEM観察に関しては,上述した改善点を踏まえ慎重に実施する.そして,これらの結果を総合的に検討し,地球の土壌や堆積環境,海底,断層ガウジ,沈み込み帯,あるいは物質吸着に及ぼす影響など,様々な環境で起こり得るナノスケールでの物理現象について検証する.
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次年度の研究費の使用計画 |
直接経費1,300千円の内訳は,物品費が6500千円,旅費に500千円,人件費・謝金として50千円,その他として100千円である. 物品費の6500千円は,主に高温高圧実験用等の消耗品費に充てる.旅費500千円の内訳は,国内学会,放射光施設での実験の旅費に200千円,国際学会参加のための外国旅費に300千円充てる.人件費・謝金の50千円は,論文作成の英文校閲費とする.その他の100千円は,学会参加費登録費用として充てる計画である.また,次年度に設備備品費は計上していない. ところで,次年度使用額に記載の25,084円分は既に年度内に実験用消耗品を物品費として購入済である.
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