研究課題/領域番号 |
24740354
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
奥部 真樹 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 助教 (10397060)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | マグネタイト / 放射光 / 共鳴散乱 |
研究概要 |
本年度はマグネタイトに関し、試料の準備、方位決定、DACの設計検討、吸収スペクトル測定及びFeの吸収端近傍における原子散乱因子の精密決定を行った。X線吸収に伴う共鳴現象を利用すると、化合物中の特定の元素のみに着目した構造解析を行うことができる。本研究にて進行中の共鳴散乱を利用した精密構造解析の精度を上げるためには、原子散乱因子の異常散乱項を厳密に考慮する必要がある。マグネタイトはFe3+が4配位のAサイトを、Fe2+とFe3+が6配位のBサイトを1:1で占有する。そこで配位数が異なるマグネタイトのAとBサイト間の差に着目し、Fe K吸収端近傍のエネルギーで共鳴散乱実験を行い、席選択的なマグネタイトのFe吸収端近傍での異常散乱因子の決定を試みた。放射光施設PFのBL-6Cで、リガク4軸回折計AFC-5を中心とした回折装置を用い常圧室温の条件下で共鳴散乱実験を行った。XANES測定及びXMCD測定を行い、XMCDピーク及びXANESスペクトル中のpre-edgeに関与する波長及びオフピークの2波長 で3次元Bragg反射強度を測定した。解析には最小二乗法プログラムRADYを用い、精密化によって異常散乱因子を求めた。最小二乗法の解析では、残差因子が最小となる極小値が存在し、適切な異常散乱因子が求められた。得られた2波長の異常散乱因子は、AとBサイトそれぞれで、f’ = -7.063と-6.971 、 f’= -6.822と-6.709 であり、Fe吸収端近傍でのX線吸収スペクトルからKramers-Kronigを用いて求められた値と矛盾しない結果が得られた。より精密な異常散乱因子を利用することで、結晶構造因子を与える構造モデルがより正確になり、今後行うFe吸収端エネルギーを用いた構造解析の精度向上が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までは共鳴磁気散乱データの収集の技術的な検証に重点を置いた研究を行う計画になっており、おおむね当初の予定通りに進行したといえる。X線回折法を用いた吸収端近傍エネルギーでの構造解析では、【研究実績の概要】で述べたように、原子散乱因子の異常散乱項を考慮する必要がある。一般的には理論計算により得られた異常散乱因子が用いられることが多いが、理論値は孤立原子を仮定しており現実の試料を用いた場合には化学環境の影響から理論値と実験値とでは大きく異なることが知られており、配位環境を考慮した精密な構造解析を行うためには、実験的に決定した異常散乱因子を用いることが重要である。精密磁気構造解析を目指す本研究では、特に、今後共鳴磁気散乱実験を行う予定である波長でのFeの異常散乱因子を得られたことは、今後この研究を進めるうえで非常に有用である。
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今後の研究の推進方策 |
現在設計を進めている非磁性材料を用いたDACを作成し、磁場下での高圧実験を開始する。試料周りでの磁場発生機構については未だ検討段階ではあるが、使用予定の実験施設(Photon Factory BL-6C)の他の実験装置配置と干渉しない設計を行う必要がある。マグネタイト単結晶について、高圧下での共鳴散乱及び共鳴磁気散乱データの収集を行う。得られた反射データは、3次元的な構造解析を試みるほか、Fe原子の電子状態を反映した特徴的な傾向の有無(例えば特定の反射で左右円偏光の差が顕著など)も検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
概ね年度初めの予定に沿った予算執行であったが、航空運賃や物品購入時の価格が当初予定と異なる場合(割引等)があり、最終的に収支に差が生じた。当該予算は、次年度分と合わせて、工具などの消耗品の購入に充てる予定である。
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