研究課題/領域番号 |
24740354
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
奥部 真樹 東京工業大学, 応用セラミックス研究所, 助教 (10397060)
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キーワード | マグネタイト / X線共鳴磁気散乱 / 共鳴効果 / 磁性電子 |
研究概要 |
X線共鳴磁気散乱を用いた磁性鉱物の構造解析を目的とする本研究では、X線吸収現象に伴う共鳴効果を利用するため、注目したい原子(ここでは磁性を担う原子)の吸収端近傍波長を用いた実験を行う。吸収端近傍波長での回折実験では原子散乱因子の共鳴効果(異常分散項)を考慮する必要がある。共鳴散乱の解析において、異常分散項の値は文献(インターナショナルテーブル等)より引用されることが多いが、それらの情報は孤立原子を想定した計算による値であり、実際の結晶中で原子が受ける影響(結晶場など)は反映されておらず、磁気的寄与も含まれていない。本研究での詳細な構造解析には、共鳴効果の適切な見積もりが必須であり、本年度はマグネタイトの共鳴効果の磁気的寄与を求める方法を理論的及び実験的に検討し、結晶学的に異なるサイトを占有するFeイオンを区別した磁気的異常散乱因子の決定を行った。放射光実験施設PhotonFactoryにおいて、マグネタイトの鉄K吸収端の前後で、X線エネルギーを変えながら円偏光X線をを用いてX線共鳴磁気散乱を行った。各エネルギーでのX線共鳴散乱強度の左右円偏光の差を解析することで、同一元素(ここではFe)の構造中での占有サイト(4配位Aサイト、6配位Bサイト)を区別して磁気的異常散乱因子を実験的に見積もることができた。得られた磁気的異常散乱因子のエネルギー依存性を調べることで、AサイトBサイト、それぞれを占有するFeの磁性電子の状態密度を議論した。結果は第一原理計算による報告[1]と相反せず、Aサイトのe、t2軌道、 Bサイトのt2g、 eg軌道をとる磁性電子のエネルギー差を実験的に求めた。また、フーリエ法を用い、本研究にて見積もった共鳴効果の磁気的寄与を加味した磁性電子の空間分布の可視化を行った。 [1]Anisimov et al. PRB, 547, 4387
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では精密な磁気構造解析の為のX線共鳴磁気散乱の理論的及び技術的な検証も重点の一つとなっている。当初は原子散乱因子の共鳴効果の見積もりに関し、磁気的異常散乱因子の実験的決定及びエネルギー依存性の検証までを考えていなかったので、この点に関しては交付申請書に記載した内容より進展したと言える。これにより、より精密な磁気構造解析が可能となる。 高圧下でのX線共鳴磁気散乱実験の準備に関しては、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)本体の設計は終了し、小型のメリルバセット型に合わせた磁場発生機構の設計も終了した。ダイヤモンドアンビルの形状と台座部分に関しては、製作業者より加工可能な形状について新たに情報やアドバイスを得たこともあり、検討事項が増えたため形状の最終決定に至っておらず、現在プロトタイプを用いて検討中である。本年度は、実際に高圧下X線共鳴磁気散乱を行う予定のビームラインにおいて、鉄K吸収端近傍の幾つかの波長におけるマグネタイト単結晶を用いた予備実験 (ダイヤモンドアンビル通過に伴う散乱強度の減衰に関するデータ収集など)を行った。手持ちのDACを用いた外部磁場がない状態での予備実験であったが、散乱強度の左右円偏光での差がどのくらい得られるか等の検証ができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の成果である磁気的異常散乱因子の決定について論文発表を行う。また、現在までの成果を踏まえ、X線共鳴磁気散乱実験を高圧下へ拡張する。予備実験より、使用予定の波長における散乱強度の減衰が見積もり大きいことが分かり、上記[現在までの達成度]欄にて記載の作成中のダイヤは当初の想定より厚みを薄く設計しているので、測定する圧力範囲の再検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
高圧発生装置であるDAC本体と一対のダイヤモンドアンビルの購入が次年度に持ち越しになったため、その分が繰り越しとなった。DACの加圧治具は試験等もあり既に購入済み。 当初の予定通り、DAC本体とアンビルを購入予定。
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