X線共鳴磁気散乱を用いると元素や結晶学的占有サイトを選択しての磁気構造解析が可能である。遷移金属化合物では、金属の3d軌道と酸素の2p軌道が混成するなど相関が特に大きく、磁性電子に関する情報のみならず電子軌道秩序や配位子場に関する情報も得られると期待できる。精密な磁気構造解析を行うために、本研究においてはX線共鳴磁気散乱効果の理論的・技術的検証も重点の一つとして行ってきた。本研究で扱う磁性鉱物のFe3O4(マグネタイト)の場合には、Feが4配位のAサイトと8配位のBサイトを占有する。昨年度までの本研究において、占有席の違い(A及びBサイト)によるFeの共鳴効果の違いと異常散乱因子の決定、各サイトにおけるFeの磁気散乱強度の違いをエネルギーや関係する電子軌道を分離して評価する方法、などを検討し、その解析を行った。その結果を受け、本年度はFeのK吸収端近傍のエネルギーにおける磁性電子密度分布の解析をおこなった。結果、A、Bサイト共に、FeとOの間にピークを持つような、磁性電子のみをマッピングした電子密度分布を得ることができた。特にE = 7.1094keVは、FeのK吸収端近傍において、AサイトとBサイトの寄与の極性(スピンの方向)の差が最大になるエネルギーであり、XMCDでは差がキャンセルアウトされ磁気的応答を示さない。このエネルギーで、磁性電子密度分布解析がなされたことは、X線磁気共鳴散乱法による磁気構造解析の有用性を示していると言える。得られた電子密度分布に関しては結果を考察中であるが、解析をより詳細に進めた後、理論計算の結果との比較も含めて結果を報告する予定である。
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