研究課題
今年度は、始原的コンドライト隕石とその母天体の進化の条件について明らかにする為に、炭素質隕石の鉱物学的研究・分光学的研究と小惑星イトカワ試料の鉱物学的研究を行った。(1)CVコンドライト隕石は、全岩の酸素同位体組成に幅広い特徴を持ち、母天体において様々な程度の2次変成が生じていたことが示唆されている。しかしながら、これまでの研究では、Allende隕石という1種の隕石のみ多く研究されているのみで、それ以外のCVコンドライト隕石の特徴は不明な点が多い。本研究では、Allende隕石を含めた、複数の南極産CVコンドライト隕石の鉱物学的特徴から水質変成及び熱変成の度合いを比較し、合計7個の隕石についての2次的変成についての系統的分類を行った。さらに、それぞれの隕石について拡散反射スペクトル分析を行った。特に、紫外・可視・近赤外領域での拡散反射スペクトルでは、南極産隕石に地球風化の影響が見られ、スペクトルの解釈に考慮が必要であることが示唆された。(2)小惑星イトカワ試料について、新たに配分された粒子RA-QD-0094についての初期記載を行った。本粒子は、平衡コンドライトの中でも熱変成度の程度の低い隕石に類似しており、本粒子も熱変成度の比較的低い場所を起源とすることがわかった。また天体上でのショックステージを見積もった結果、S2 (weak shock)程度であることを示した。以上の結果を、日本惑星科学会(2014年11月・東北大)、極域科学シンポジウム(2014年12月・国立極地研究所)、Hayabusa 2014: 2nd conference of solar system materials (2014年12月・宇宙科学研究所)、46th Lunar and Planetary Science Conference(2015年3月・アメリカ・テキサス州)にて研究発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、始原隕石中の熱変成度/水質変成度について着目し、多くの隕石について比較研究を行った。変成度の異なる数多くの隕石を統計的に分析し、太陽系星雲からの凝縮過程と変成過程の条件に制約を与え、同隕石の分光学的特徴も組み合わせた議論を行ったことは本研究独自のものである。本研究で結果は、本研究課題の目的である「太陽系初期の固体物質進化」を議論する上で重要な情報であり、本研究の順調な進展を示している。
これまでの研究において、隕石種ごとの反射スペクトルの違いは多くの議論がされているが、同じ隕石種内での変成度と反射スペクトルの関連性については不明な点が多い。本研究では既に鉱物学的特徴を基に変成度を決定しており、同じサンプルを用いた反射スペクトル分析をさらに進めることで、小惑星のリモートセンシングデータとの比較に関するさらなる議論を展開する予定である。また、小惑星イトカワ試料について、次年度は透過型電子顕微鏡によるナノスケール分析を計画しており、その結果を早急に論文として取りまとめる予定である。
今年度、「はやぶさ」試料の透過型電子顕微鏡分析を複数回行う予定であったが、試料作製及び表面研磨に時間がかかり、予定していた分析を完了することができなかった。このため、研究発表を予定していた学会(日本鉱物科学会)を取りやめた。以上の理由により未使用額が生じた。
次年度は、「はやぶさ」試料の透過型電子顕微鏡分析を計画通り行う。また、来年度は、共同研究として新たに放射光施設Spring-8の分析を計画しているので、分析のための出張旅費として使用する予定である。
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Meteoritics & Planetary Science
巻: 50 ページ: n.d.
Earth, Planets and Space
巻: 66 ページ: id.82
巻: 49 ページ: 1997-2016