研究課題
若手研究(B)
本研究課題では、天然ガス分子を含む特殊なシリカ鉱物について、その結晶化学的な性質と、地球科学的な視点での形成環境、天然ガス分子の起源について明らかにすることを目的とする。1年目となる平成24年度は、放射光X線と実験室での単結晶X線回折実験、予備的な炭素同位体測定、およびフィールド調査を行った。単結晶X線回折実験では、千葉石と、もう一種類の新鉱物候補の常温での構造解析に成功した。また、千葉石は、20~30℃付近で相転移を起こし、高温では立方晶系、低温では正方晶系の結晶構造をとることが確認された。炭素同位体測定に関しては、十分な量の試料を確保することが難しいことから、予備的な結果に留まるが、少量の千葉石を含む石英脈の測定を行い、-33.4±2.0 permilとの値を得た。この値は、メタン生成菌由来(-50から-110permil)より熱分解起源のメタンの値(-25から-50 parmil)に近く、地質環境から推察された成因を支持する。ただし、石英を含めた試料全体の測定であるため、試料中の炭素含有量が非常に少なく、現段階では誤差が大きい。また、石英中の流体包有物等の影響や、結晶が1000℃程度の高温まで安定であるために、燃焼法では全てのガスが乖離していない可能性が排除できない。こうした問題点については、合成試料を用いた比較実験も合わせて、今後検証を行う予定である。フィールド調査に関しては、千葉県に次いで、長野県内から、世界で2番目となる千葉石の産出を確認した。
2: おおむね順調に進展している
結晶構造解析については、ほぼ計画通りに進んでいる。炭素同位体測定に関しては、初年度の予備的測定に関しては計画通り目的を達したが、試料、および測定法の両方の制約から、より厳密な議論を行う上では、より一層の工夫や検証実験が必要である。一方、フィールド調査に関しては、新たな千葉石産地が発見できたことで、研究試料を大幅に拡充できる見通しが立った。新産地の地質は、原産地とは大きく異なっており、千葉石自体も、含まれるガス組成の比率や、相転移温度、結晶外形などにおいて、原産地のものと違いが見られる。そのため、結晶化学的議論においても、天然ガス分子の起源や、形成環境の解明に関しても、当初計画に比べて、「多様性と共通性」をより鮮明にできるはずである。
今年度は長野県のフィールド調査を重点的に行い、可能な限り試料を確保するとともに、周辺地質の調査を行う。長野県産千葉石は、露出が非常にローカルな火山岩体中の亀裂を充填するように産出する。しかし、火山岩中に多量のメタンが含まれたとは考えにくく、火山岩が未固結の堆積岩に貫入した際に、堆積岩由来の有機物と火山岩の熱により、千葉石が形成されたと推察される。そのため、火山岩体の周辺も含めた調査を行う。また、長野県産試料のラマン分光分析や単結晶構造解析、炭素同位体測定などを進める予定である。
地質調査において、大型試料のサンプリングを業者に依頼する費用として約30万円、旅費として30万円、消耗品費・その他に50万円を見込んでいる。
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