研究課題
本科研費を用いた研究では,日本列島グリーンタフベルトに胚胎する黒鉱鉱床および石油鉱床の生成年代をRe-Os (レニウム-オスミウム) 放射壊変系を利用して決定し,日本海拡大と鉱床生成の関係を明らかにすることが目的である.また,Re-Osアイソクロンの切片 (Os同位体比初期値) やOs同位体比組成から,黒鉱鉱床を形成する金属元素の起源や,石油鉱床の起源を解明することが目的である.これまで,両鉱床とも直線性の良いRe-Osアイソクロンを得るに至っていないが,それらの原因解明と対策を適宜進行中である.黒鉱鉱床に関しては,環境変動と鉱床生成・保存のリンケージを解明するために,秋田県北鹿地域の野外調査において連続的に泥岩試料を採取し,日本海の環境変動を理解するための研究も並行して進行中である.また,石油鉱床に関しては当初の予想よりも遥かに低いOs同位体比が得られていることから,石油の生成・熟成に熱水が関与した可能性を強く示唆しており,従来の石油の成因論に一石を投じる重要な結果を得つつある.2013年度は共著を含めると4編の査読付き論文,6件の国際会議発表 (うち招待講演1件),28件の国内学会発表 (うち招待講演4件) が公表された.特に,Nature系のジャーナルに2編の論文が掲載され,その研究成果はTV・新聞などで広く報道された.現在,2編の論文が受理,2編の論文を投稿中であり,今後も手許にあるデータから順次論文化していく予定である.秋田県北鹿地域の泥岩試料の全岩化学組成からも,日本海の酸化・還元環境変化を示唆する興味深い結果が得られつつあり,本科研費を用いた研究は順調に進んでいるといえる.
2: おおむね順調に進展している
日本列島グリーンタフベルトに分布する秋田県相内鉱床,島根県大歳鉱床のRe-Os分析を試みた.BLKも合わせて計25試料のRe-Os分析を行った.その結果,両鉱床とも,Re-Os同位体比のバリエーションが小さいことと,各試料によりOs同位体比初期値が異なるために直線性の良いアイソクロンが得られないことが分かった.この対策として,(1) 狭い同位体比バリエーションで直線性の良好なアイソクロンを得るために,ラボのRe-Osブランクを低減すること,(2) 鉱石タイプごとのRe-Os同位体組成を把握することが必要である.(1) に関しては,共同研究者と試薬の確認や実験室環境を改善することで,従来よりもRe-Osブランクを数倍程度低減させるに至っている.(2) については,黒鉱鉱床のモダンアナログである沖縄トラフ海底熱水鉱床のOs同位体分析を行った結果,重晶石や石膏を多く含む試料は,熱水~海水の間の様々なOs同位体比組成を取り得ることが明らかになった.したがって,類似した鉱石タイプを用いないとOs同位体比初期値が一致しないために,アイソクロンが引けないことが明らかとなった.これらを踏まえて,現在秋田県松峰鉱床のRe-Os同位体分析を進行中であり,典型的な黄鉱と黒鉱に分けて試料を準備した.石油鉱床に関しては,秋田県申川油田と由利原油田の原油試料について予察的なRe-Os分析を完了している.こちらも直線性の良好なアイソクロンを得られていないが,当初の予想に反して多くの試料が0.2~0.3程度の低いOs同位体比を示す.したがって,原油の生成に低いOs同位体比(~0.12)を持つ熱水が関与した可能性を強く示唆しており,いわゆる熱水性石油の重要性を再認識させられる結果が出ている.今後,さらなる試料の追加と逆王水に加えてCrO3-H2SO4分解を行った試料のRe-Os分析も必須である.
ラボのRe-Osブランクが低減したことと,類似した鉱床タイプを用いれば黒鉱鉱床でも直線性の良好なアイソクロンを引ける目途が付いてきた.秋田県松峰鉱床の結果を見つつ,他鉱床の鉱石試料についても順次粉末化と研磨片の作成,Re-Os分析と鉱物記載を進めていく予定である.2014年度は本研究課題の最終年度に当たるため,分析をスピードアップさせていきたい.また,各試料によりOs同位体比初期値が異なる問題をさらに深く理解するために,LA-ICP-MSを用いた硫化鉱物の微量元素分析を行っていく予定である.まずは,硫化物のスタンダードとfs-LA-ICP-MSを用いた分析手法の確立を行い,各鉱物のRe濃度を測定できる体制を整える予定である.Re-Os同位体比のバリエーションは,放射壊変の親である187Reの濃度バリエーションに大きく依存する.したがって,LA-ICP-MS分析により各鉱物のRe濃度が明らかになれば,鉱石試料中のRe-Os同位体比バリエーションの原因も明らかになることが期待され,これまで研究者の勘に頼る部分が大きかった分析試料の選別を系統的に行うことができ,より効率的に直線性の良好なRe-Osアイソクロンを得られるようになることが期待される.以上,最終年度では (1) 黒鉱鉱床,石油鉱床のRe-Os分析の追加,(2) 泥岩試料の全岩化学組成分析のまとめ,(3) fs-LA-ICP-MSによる各鉱物のRe濃度の把握を行うことにより,(i) 日本海拡大と黒鉱・石油鉱床生成の関係,(ii) 日本海の酸化・還元環境変化の把握,(3) 硫化物鉱石試料のRe-Os同位体比バリエーションの原因を解明していく予定である.
一部消耗品の購入を他予算から行ったため,次年度使用額が生じた.Re-Os同位体分析に伴う消耗品類 (主にテフロンジャーや高純度試薬)の購入に充てる計画である.
すべて 2013 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (34件) (うち招待講演 5件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 3 ページ: 1889
doi: 10.1038/srep01889
Earth and Planetary Science Letters
巻: 376 ページ: 145-154
doi.org/10.1016/j.epsl.2013.06.018
Nature Communications
巻: 4 ページ: 2455
doi: 10.1038/ncomms3455
Geochemistry, Geophysics, Geosystems
巻: 14 ページ: 4774-4990
doi:10.1002/ggge.20283
http://www.jamstec.go.jp/shigen/j/