研究課題/領域番号 |
24740374
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
宇佐見 俊介 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (80413996)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 多階層シミュレーション / 磁気リコネクション |
研究実績の概要 |
階層横断現象として磁気リコネクションを完全に理解することを目標に、多階層シミュレーションモデルの開発・改良を行っている。我々の多階層モデルでは、シミュレーションの実空間を分割する手法を採用し、マクロ領域のダイナミクスは磁気流体(MHD)シミュレーション、ミクロ領域の物理は粒子(PIC)シミュレーションを用いて解き、2つの領域間に挿入されたインターフェイス領域にて両者をスムーズに連結する。これまでに、このモデルを使って磁気リコネクションの階層間相互作用について調べ、一定の成果を得ている。 しかし、リコネクション下流方向を物理的により適切に連結することが要請されている。そこで、今年度はHall効果や有限Larmor半径効果といった非理想項を扱える拡張MHDとPICを連結した新しい多階層モデルの開発を進めた。現在、この新しいモデルを用いて、これまでの多階層モデルでは扱えなかったホイッスラー波を伝播させるなどの検証を行っている。 モデル開発面では他に、適合格子細分化法(AMR)をMHD部分に採用した多階層モデルを作り、磁気リコネクションに適用することに成功した。 一方で、下流方向を階層間連結するために、磁気リコネクションアウトフローにおけるプラズマの振る舞いを理解することも重要な課題である。そこで、PICシミュレーションを用いて磁気リコネクション下流の物理を調べた。粒子速度分布の変動を詳しく解析した結果、イオンはpickupと呼ばれる機構により、実効的な加熱を受けていることが明らかとなった。pickup機構は、地球磁気圏や天体プラズマ分野ではよく知られており、マイナー成分である重イオンがその対象となり得ると考えられていた。本研究により、主成分である水素イオンもpickup機構を受けうることがはじめて証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題の目的は、多階層シミュレーションモデルを開発して磁気リコネクションにおける階層横断現象を探求することであり、そのモデルを地球磁気圏や磁場閉じ込め装置などの大規模な実際の系へ適用することを目指している。目標としている多階層モデルは、以下のような特色を備えたものと想定している。1. 上流・下流の両方向について階層が連結されている、2. マクロ階層(MHD領域)とミクロ階層(PIC領域)の間に、必要に応じて中間階層を設ける、3. 各領域の範囲を動的に変化させる、4. 計算領域を並列化する。 平成27年度は、1につながる研究を主に進めた。すなわち、リコネクション下流方向を物理的により正しく階層間連結するため、下流における電磁場、プラズマの挙動を詳しく解析した。その結果、新しい実効的加熱機構を見出すことができた。一方では、Hall項や有限Larmor半径効果などの非理想項を扱える拡張MHDとPICの連結にも取り組み、検証を進めることができた。しかし同時に、階層間連結にはまだまだ課題が残っていることも示された結果となった。 また、適合格子細分化法(AMR)をMHD部分に組み込んだ多階層モデルについては、これを用いて磁気リコネクションのシミュレーションを行い、大幅なメモリと計算時間の短縮につながることを示せた。その一方で地球磁気圏のデータを読み込んでの大規模な多階層シミュレーションは、開始したばかりである。 以上から、達成度は、計画より遅れていると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度以降も、多階層シミュレーションモデルの開発・拡張を続け、磁気リコネクションの階層構造を調べる。一方では、下流領域におけるプラズマ運動の解析から発見に至ることができたプラズマ加熱機構をさらに詳しく探求する。 特に拡張MHDとPICの連結については、予定より遅れが目立っている面であるため、この開発に重点を置く。開発したモデルの検証としてホイッスラー波伝播などのシミュレーションを行い、磁気リコネクションの階層構造探求に取り組む。 また、多階層モデルを磁気リコネクションが絡んでいる実際の系に用いることができるようにする。そのターゲットして1つに地球磁気圏におけるサブストーム現象を考えている。地球磁気圏全体を扱うMHDシミュレーションあるいは人工衛星のデータを受けることによって、大規模な多階層シミュレーションを行い、宇宙天気予報の精度向上などに貢献していくことを目指す。 また、核融合研究面への貢献として、球状トカマクにおけるプラズマ合体実験とシミュレーションの比較に取り組む。球状トカマクでは、磁気リコネクションを通してプラズマが合体することにより、標準的なトカマク装置より高ベータのプラズマを閉じ込めることができ、将来の核融合装置の候補として期待されている。多階層モデルあるいは粒子モデルを用いて前述したプラズマ加熱を詳しく調べ、東京大学のTS-3やTS-4、あるいはプリンストンプラズマ物理研究所のMRXといった球状トカマク装置の結果と比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年6月に核融合科学研究所のスーパーコンピュータ「プラズマシミュレータ」が更新され、富士通FX100を中心とするマシンとなり、演算性能は8倍以上となった。しかし、この新スパコンは導入当初から現在に至るまで障害が多数発生し続けており、予定していたシミュレーションを進めることができなかった。そのため計画を修正し、来年度も引き続き本研究課題を遂行し、その成果を学会・研究会などで発表する。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度に延期した研究に関する成果を、学会あるいは研究会にて発表するための旅費・参加費に用いる。現在、金沢大学角間キャンパスで開催される日本物理学会秋季大会での研究成果報告を予定している。 また、プラズマ物理における最新の知見や計算技法を取り入れることを考えている。そのため、書籍購入として消耗品費を使用する。
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