研究課題/領域番号 |
24750002
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
河合 信之輔 静岡大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (90624065)
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キーワード | 化学反応ダイナミクス / エネルギー地形 / 実効自由度 / 熱ゆらぎ / 凝縮相 |
研究概要 |
今年度は,前年度に着想を得たエネルギー地形概念の再考に関する研究を,「射影」の観点からさらに考察し深化させた.ここで言う「射影」とは,多数の自由度を有する系から特定の少数の変数を選択し,その変数の運動のみを取り扱う事である.射影先の変数の選択の問題や,系が本来有する多次元的な性質が射影によって失われるなどの問題がある.本研究課題では,射影された運動の情報から,現象を記述するのに本来必要な実効的な自由度を回復する手法を追求している.前年度までの手法は,系と環境との相互作用が線形近似できる場合を主に取り扱っていたが,今年度は環境自由度が大きな非線形性を持つ場合にも適用できる手法について着想を得て発表した.これにより,最初に選んだ変数とは大きく異なる方向に複数の安定状態を持つような場合においても,その状態間遷移を正しく取り出すことが可能になった. さらに,本研究課題で用いている手法を,より具体的な系である塩化ナトリウム水溶液中のイオン会合の問題へ適用する研究に着手した.水溶液中で塩化物イオンとナトリウムイオンが会合したり解離したりする過程は,単純に両イオン間の距離を変数とした1次元のエネルギー地形では上手く記述する事が出来ず,溶媒の再配置に対応する自由度を追加して考慮する必要があることが先行研究によって示唆されており,溶媒の影響下で進行する化学減少を研究する上で重要な系となっている.本研究では,イオン間距離を出発点とし,上記の非線形な実行自由度を抽出する手法を適用して,溶媒和を記述していると考えられる実行自由度を構成し,2次元のエネルギー地形を書く事が出来た.この研究成果は,年度末に行われた日本物理学会のシンポジウムで発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「現象の本質を担っているものが何か」「実質的に現象を記述するのに,どのような変数が何個必要なのか」といった問いに答えるべく,「実効的な自由度」という概念について理論的に追求を行い,順調に深化を続けている.特に,前年度後半から今年度にかけて,「エネルギー地形」概念との関連から大きな進展を得ている.エネルギー地形の代表的な概念である「平均力ポテンシャル」と「自由エネルギー地形」との違いを改めて指摘し,低次元への射影によって失われた情報を回復するための手法を定式化するには「平均力ポテンシャル」で考察した方が見通しが良いことなど,新たな知見が得られている. 学会においても,日本物理学会シンポジウムにおける招待講演をはじめとして,研究の進捗状況を適宜発表しており,関連分野の研究者から活発な議論を得ている.特に,射影によって失われた多次元的な情報を回復する手法と,具体的な系への適用可能性について興味を持たれており,今後は溶液中のイオン会合の問題をはじめとした分子動力学シミュレーションを遂行し,具体的な系への適用をさらに進めて行く予定である.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度報告書の本欄に記した事項のうち,摩擦項が非線形な場合への理論の拡張に関しては,今年度に大きな進展があった.今後はさらに,非定常系においても実効的自由度の抽出を可能にするための理論的拡張、一般化ランジュバン方程式の中の摩擦項だけでなくランダム力も環境の情報を担っているはずなので、その情報も取り込めないかどうかの検討、などを行う。 シミュレーションの面では,塩化ナトリウムのイオン会合に関する分子動力学計算と,結果の予備的な解析が完了しているので,今後さらに本格的な解析を進める.より具体的には,これまでの解析で得た実効的な2自由度のエネルギー地形について,その2次元の中でさらに座標変換を行ってより良い座標の取り方を検討する.ここで「より良い」とする基準は,2個の自由度で書いた運動エネルギーの表式が,出来るだけ非対角項を含まない,直交座標に近い形になっており,したがってエネルギー地形上の「玉転がし」として系の時間変化をイメージできるようにするものを考えている.
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