研究課題
昨年度(平成24年度)は、電子運動量分光法(EMS)のエネルギー分解能の支配因子の一つである、入射電子のエネルギー幅の改善を図り、従来の熱電子銃と比べて、入射電子エネルギー幅を約1/4(0.25 eV)にまで小さくすることに成功した。これを受けて平成25年度は、エネルギー分解能のもう一つの支配因子である、電子エネルギー分析器の分解能の改善を行った。平成24年度の予備実験の結果を踏まえて、電子エネルギー分析器のスリット幅を既存(0.5 mm)の1/5とし、かつ、600 eVの散乱電子のエネルギーを1/3に減速させたEMS実験を試みた。スリット幅を0.1 mmとすることで、信号強度が大幅に激減したものの、月単位の積算を行えば十分に統計の良いデータが得られることが分かった。一方、散乱電子の減速実験では、大量の二次電子が検出されるという問題と、放電の観点から減速レンズの電圧を低圧に保たなくてはならないという制約が生じた。そこで、二次電子が検出器に進入するのを極力抑えるために、検出器の前面に銅メッシュを新たに配置して、EMS信号を取り出せるようにした。一方、放電の問題については、電子エネルギー分析器の大幅な改良が必要なため、低い電圧での実験条件の最適化を試みた。そのような状況下においても、EMSの分解能としては、それまでの3倍近くの1.1 eVにまで改善することに成功した。以上のように、EMSの分解能を大きく改善することができたものの、所期の目標である0.3 eVには及ばない。本研究では、さらなる高分解能化には、前述の電子レンズ系の改良のみならず、収差の影響の軽減、電源電圧の安定化、および入射電子線強度の向上も不可欠であることが明らかとなった。今後、これらの課題に対策を施すことで、原子核配置に依存した電子波動関数形状の精密観測を可能とする高分解能EMSが実現すると期待される。
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http://db.tagen.tohoku.ac.jp/php/db/view-personal.php?pserial=2961