研究課題/領域番号 |
24750009
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
野本 知理 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00510520)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | ラマン分光法 / 界面 / 振動分光法 |
研究概要 |
本研究では、界面の電子授受に寄与する分子振動に関する情報を得るため、界面の電位制御が可能な探針増強ラマン分光(TERS)測定装置の開発を行った。 TERSに先立ち測定済の増感色素吸着二酸化チタン表面の空気中の4次のラマンスペクトルの解析を行ったところ、TiO2の低波数のバルク・表面フォノンが増強され、色素-TiO2間の電子授受にこれらの振動モードが影響を与えている可能性が示唆された。そこで、TERSの探針と試料の間の電圧を制御することで試料に電場を印加し、色素分子が吸着した表面のTERS測定を行った。これにより、探針と試料間の電圧に応じて色素分子の探針増強ラマン散乱強度変化が観測されたが、空気中では酸化の影響が免れず、印加電圧によるスペクトル変化と試料の褪色によるスペクトル変化を判別することが難しいという問題が発生した。そこで、空気中で探針と試料間の電圧を制御するのではなく、電気化学環境下にTERSの探針を導入することで電極表面のTERS信号を得ることで、光エネルギー変換界面の表面電位に応じたTERS信号が得られないかと考えた。 液体中のTERS測定の報告例は少なく、測定に際しては表面ナノ粒子や誘電体皮膜の剥離が問題となる。このため、水中でも探針上の銀・誘電体コートが剥離することのない安定な探針として、電解研磨タングステン探針上に陽極酸化アルミナと銀をコートした探針を作製した。作製した探針は、水に浸しても剥離が観察されることはなく、TERS増強も得ることができた。この探針にてガラス基板に担持した脂質2分子膜の水中測定を行ったところ、脂質分子のスペクトルを得ることができた。さらに探針を電解質溶液中に浸し、参照電極と対極を配置して試料の電位を制御し、電気化学環境下でのTERS測定を試みた結果、電解液に浸った状態で吸着分子のTERS増強を確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では当初、探針と試料間に電圧を印加することで色素分子が吸着した表面の探針増強ラマン散乱強度変化の観測を狙った。このため、界面の電位制御が可能な探針増強ラマン分光(TERS)測定装置の開発を行い、TERS探針と試料の間に電圧を印加して表面の吸着色素分子への印加電圧に応じたTERS信号強度変化の観測を行った。しかし空気中の測定では酸化の影響が免れず、電位変化によるスペクトル変化と試料の退色によるスペクトル変化を判別することが難しいという問題が発生した。そこで、探針と試料間の電圧を制御するのではなく、電気化学環境下にTERSの探針を導入することで電極表面のTERS信号を得ることで、電気化学環境下のTERS測定の実証を行った。このために、水中でも安定な探針を開発、電解質溶液中に浸して参照電極と対極を配置してポテンショスタットにより試料の電位を制御することで、電気化学環境下でのTERS測定を試みた。 構築した装置を用いて、パラアミノチオフェノール(PATP)を吸着した銀蒸着透明電極基板について測定を行ったところ、電解液に浸った状態で複数の電位でPATPのTERS増強を確認することができた。以上の結果から、電気化学環境下でTERS増強の確認を行うことができた。
|
今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究にて構築した電気化学環境下でのTERS測定をより確かなものにするため、より多数の電位でTERS増強の確認を行えるようにする。また、PATP以外の表面電気化学反応・界面の電子授受により分子構造が変化する分子についても、TERS増強の確認、および電位に応じてスペクトルが変化することの確認を行う。これにより、通常の方法では観測が難しかった電気化学反応表面の吸着分子についてもTERS測定を行えるようにしたい。 さらに、水溶媒以外の溶媒環境下におけるTERS測定の可能を探ると共に、色素が吸着された金属酸化物電極モデルの作製などにより、光エネルギー変換界面についても電位条件によるTERS信号変化を捉えたい。 電気化学環境下のTERS測定を発展させることができると、電極表面のステップやテラスといったナノメートルスケールの微細な構造に応じた振動スペクトルを得ることができる可能性を秘めていることから界面の化学反応を探るにあたって有望であると考えられる。今回測定を行ったPATP以外の分子、微細な構造を持つような試料について測定を行うことで、電気化学環境下でのTERS測定をより確かなものにしていきたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
以上のとおり、電気化学環境下でのTERS測定をより確かなものにしていくために、探針と試料双方の電位を制御するためのポテンショスタットの導入を計画している。また、光学系、電気系統の更なる改良を行うための光学部品・電子部品のための物品費、水中で様々な分子、表面の測定を行うための試薬購入費も計上予定である。さらに試料セルなど、より良好な測定結果を安定して得ることができる装置を構築するための物品費が必要となる。さらに、研究成果の発表等を行うための旅費、謝金としても使用予定である。
|