研究課題/領域番号 |
24750011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
歸家 令果 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10401168)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 反応動力学 / 強光子場科学 |
研究概要 |
本研究ではレーザーアシステッド電子散乱(LAES)過程を用いて、強レーザー場中の原子や分子の光ドレスト状態の性質を直接プローブすることを目的としている。平成24年度は、「1.フェムト秒LAES観測装置の改良」、および、「2.LAES散乱によるドレスト状態観測」を行った。 1.フェムト秒LAES観測装置の改良 電子パルス発生用紫外レーザー光のパルス幅を伸長することによって電子パルス時間幅の最適化を行った。その結果、LAES信号の強度変化を指標にして、電子パルスとレーザーパルスとの時間差調整を行うことが可能となり、LAES観測のために最適な実験条件を精密に決定できるようになった。これらの改良によって、LAES信号の検出効率が10倍程度向上した。 2.LAES散乱によるドレスト状態観測 改良されたフェムト秒LAES観測装置を用いて、Xe原子を試料として散乱角度2~12度の範囲におけるLAES散乱角度分布の測定を行った。従来の理論的予測では、光ドレスト状態形成の効果は、散乱角度0~1度の領域に現れると考えられていたが、散乱角度2~4度の領域においても光ドレスト状態の効果を考慮しない理論予測との不一致がみられた。同様の結果は、CCl4分子を試料としたLAES散乱角度分布の測定でも観測された。今回得られた実験結果は、強レーザー場中での原子・分子の光ドレスト状態が従来の理論モデルでは十分に記述出来ておらず、レーザー電場による電子雲の歪みが複雑な内部構造を持っている可能性を示唆しており、今後レーザー場強度依存性などを詳細に検証する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画当初は電子分析器前に設置された電子ビーム阻止用ファラデーカップを取り外し、電子検出器の手前に新たにファラデーカップを設置することによって、散乱角度0~12度のLAES信号を観測する予定であった。しかし、電子検出器の手前にファラデーカップを設置したところ、迷電子由来の雑音信号が大幅に増加し、LAES信号の観測が困難であることが判明した。そこで、電子ビーム径を100μm程度まで縮小し、電子分析器前に極めて小さなファラデーカップを設置することによって、散乱角度0.2~12度の散乱電子を観測するように方針を転換した。電子ビーム径の縮小に伴い、散乱電子信号の減少が予測されるが、平成24年度にフェムト秒LAES観測装置の信号検出効率の大幅な向上に成功している。さらに、散乱角度2~4度の領域においても実験結果と理論予測との不一致が観測されていることから、強レーザー場中の原子・分子の光ドレスト状態について、従来の理論では予測できていない新たな知見が得られるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、超小型電子ビーム阻止用ファラデーカップを開発し、電子ビーム径100μm程度の電子パルスを用いてフェムト秒LAES実験を行うことによって、散乱角度0.2~12度のLAES散乱角度分布の測定を行う。はじめに、Xe原子を試料として、様々なレーザー場強度でLAES信号の角度分布を測定する。次に、Ar原子やCCl4分子を試料として同様の実験を行い、得られた実験結果と光ドレスト状態の効果を考慮しない理論による予測とを詳細に比較検討する。さらに、実験結果を再現するような新たな理論モデルを構築することによって、原子・分子内の電子雲が高強度レーザー場によって時々刻々変形していく様子を解明する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用予定の研究費(630円)は、平成24年度研究費執行における端数残金として生じた。この研究費は少額消耗品購入に充てる予定である。
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