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2014 年度 実施状況報告書

有機薄膜太陽電池のナノスケール・モルフォロジーによる高効率化

研究課題

研究課題/領域番号 24750012
研究機関東京大学

研究代表者

藤井 幹也  東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (20582688)

研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2016-03-31
キーワード電子移動反応 / 有機薄膜太陽電池 / 電子状態計算 / 非断熱ダイナミクス / 電荷再結合
研究実績の概要

有機薄膜太陽電池では界面にて励起子が解離し電子・正孔の電荷対が生成される.本研究では電荷対生成の初期過程である正孔輸送分子(ドナー)から電子輸送分子(アクセプター)への電荷移動反応および生成した電荷対の再結合過程を解析している.
本年度はアクセプター分子にPCBM,ドナー分子としてP3HT,MEH-PPV, もしくはPTB7を用いたPCBM/MEH-PPV系,PCBM/PTB7系,PCBM/PTB7系の比較を行い.さらに,アクセプター分子として単層カーボンナノチューブCNTとドナー分子P3HTからなるCNT/P3HT系を解析した.
PCBM/P3HT系,PCBM/MEH-PPV系,PCBM/PTB7系の計算では,界面の安定構造を同定した後,電荷移動状態を同定した.その後,電荷移動状態から電子基底状態への再結合過程における電子カップリングを計算し,上述の3系において比較・解析した.電子カップリングはマーカスの電荷移動理論やトンネル電子移動における前因子として電子移動の強さを示すものである.結果,実験的に光電変換の量子収率が高いPCBM/P3HTでは,再結合の電子カップリングが小さいことがわかり,有機薄膜太陽電池の光電変換効率を決める1つの要因として再結合の重要性を理論的に示した.
CNT/P3HT系では,P3HTがCNTに巻き付いた界面を同定し,巻き付きによるP3HTのMOの(不)安定化を解析した.結果,巻き付くことによって,HOMOは不安定化することがわかった.一方で,バルク層におけるP3HTはポリマー間の弱い相互作用による弱いバンド構造を作ることがわかり,HOMO(valence band)が不安定化することがわかった.このバルク層におけるHOMOの不安定化は巻き付きによる不安定よりも大きく,この差が界面から正孔が抜け出すドライビング・フォースになっているとわかった.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

計画時は「励起子拡散長の伸長」と「電荷再結合と励起子緩和の防止」を掲げたが,これまで,「電荷再結合と励起子緩和の防止」について研究を進めている.これは,電荷再結合防止の方が有機薄膜太陽電池の効率を上昇するのに重要だからである.
昨年度までに,電荷再結合の生じやすさの指標として電子カップリングが有用なであると判明したので,本年度は複数の系(PCBM/P3HT, PCBM/MEH-PPV, PCBM/PTB7)に水平展開し,比較検討を進めた.その結果,光電エネルギー変換の量子収率の高い材料(PCBM/P3HT)では,再結合の電子カップリングが小さいことがわかった.次に計画で述べたとおり,P3HTの構造ゆらぎが再結合過程におよぼす影響を考察するために,PCBM/P3HT系を古典動力学計算により計算し,PCBMまわりのP3HTのゆらぎを考察した.ここでは,量子収率の良いRegioRegular(RR)-P3HTと量子収率の悪いRegioRandom(RRa)-P3HTの比較を行った.結果,RRa-P3HTではモノマー間の二面角のゆらぎが大きく,分子軌道の局在化がおきることで,電荷再結合が強まることがわかった.この機構は量子収率のよいRR-P3HT種では確認されず,P3HTの構造ゆらぎが電荷再結合に及ぼす影響を明らかにした.
界面における電子正孔の分離過程は電子励起状態における非断熱ダイナミクスの発現として理解ができる.本研究では非断熱ダイナミクスの解析における基本理論の構築も進めており,本年度は非断熱系の量子効果における重要な理論的進展も得た.特に非断熱エーレンフェスト法と呼ばれる方法論に関して数値的に安定に解く方法を新たに発見した.
以上述べたように当初計画のうち「電荷再結合と励起子緩和の防止」を中心に解析をしていることから『やや遅れている』と自己点検した.

今後の研究の推進方策

本研究を進めている間に外部環境の変化があった.それは,多くの他グループの研究成果により有機薄膜太陽電池の理解における変化があったことである.この数年の理解によれば,有機薄膜太陽電池の界面における電荷分離機構では,界面における高励起電荷移動状態を経由して電荷分離する,ホットプロセスと呼ばれる機構が重要であるとわかってきた.そのため,本研究でもホットプロセスを解析する. まずは,これまで研究してきたPCBM/P3HT系を中心に界面構造における高励起電荷移動状態を同定することから始める.そこでは,高励起電荷移動状態がどの程度界面から離れたアクセプター分子に及んでいるかが重要となるため,高励起電荷移動状態に対して電子正孔間距離を解析し,電子正孔間距離の励起エネルギー依存性について明らかにする.そして,この電子正孔間距離がPCBMの凝集度によって変化するか否か確認する.この電子正孔間距離の解析によって,ホットプロセスを示すエネルギーダイアグラムが得た後に,非断熱エーレンフェスト法によってホットプロセスによる電子正孔分離過程をシミュレートする.非断熱エーレンフェスト法につては本年度の結果から安定して計算する新しい方法論が発見されているので,それをPCBM/P3HT系に応用する.以上の計算プロトコルが確立した後は,本年度解析したようにPCBMまわりのP3HTの構造ゆらぎや,PCBMとP3HTの混合の具合によってホットプロセスの発現が変化するか否か考察する.

次年度使用額が生じた理由

本研究の補助期間中に外部環境に大きな変化があった.それは,多くの他グループの研究成果により有機薄膜太陽電池の理解における変化があったことである.この数年の理解によれば,有機薄膜太陽電池の界面における電荷分離機構では,界面における高励起電荷移動状態を経由して電荷分離する,ホットプロセスと呼ばれる機構が重要であるとわかってきた.そのため,本研究でも計画を一部変更し,ホットプロセスの解析を行うことにした.そして,本研究の一環として,電子励起状態における電子振動エンタングルメント状態を解析する基礎理論に重要な発展を得ることが出来た.これは,ホットプロセスの解析に有用なものであり今後本研究の中心的手法になる.そこで,本補助期間中に当初予定していた電子状態計算機の購入を延期し,その代わりに本成果である基礎理論の研究発表を積極的に行ったため,次年度使用額が発生した.

次年度使用額の使用計画

今後は本補助期間中に得た電子振動エンタングルメント状態の基礎理論を有機薄膜太陽電池の解析に応用してゆく.特に,本研究で得た非断熱エーレンフェスト法を数値的に安定に解く方法論を用いて有機薄膜太陽電池のホットプロセスの解析を進める.そのために,未使用額の使用用途としては,応用解析に必要な電子状態計算機および解析ソフトウェアの購入を検討する.同時に,本研究の成果について国外の様々な研究者と意見交換・議論を行うため,国外における研究会で積極的に発表する予定である.そのための旅費にも使用する予定である.

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2015 2014

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Semiclassical quantization of nonadiabatic systems with hopping periodic orbits2015

    • 著者名/発表者名
      Mikiya Fujii and Koichi Yamashita
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 142 ページ: 074104-1~10

    • DOI

      10.1063/1.4907910

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 有機薄膜太陽電池(PCBM/DPP誘導体)界面分子の理論的研究2015

    • 著者名/発表者名
      幡宮慎太郎,藤井幹也,山下晃一
    • 学会等名
      日本化学会 第95春季年会
    • 発表場所
      日本大学
    • 年月日
      2015-03-26 – 2015-03-29
  • [学会発表] 有機薄膜太陽電池のモルフォロジーと変換効率に関する理論的研究2015

    • 著者名/発表者名
      川嶋英佑,藤井幹也,山下晃一
    • 学会等名
      日本化学会 第95春季年会
    • 発表場所
      日本大学
    • 年月日
      2015-03-26 – 2015-03-29
  • [学会発表] Quantum-classical correspondence in steady states of nonadiabatic systems2015

    • 著者名/発表者名
      Mikiya Fujii and Koichi Yamashita
    • 学会等名
      Computational Chemistry in ICCMSE 2015
    • 発表場所
      Athene, Greece
    • 年月日
      2015-03-23 – 2015-03-25
  • [学会発表] Interface structure of P3HT/SWNT blend and charge separation process on it2015

    • 著者名/発表者名
      Katsuhiko Nishimra, Ryota Jono, Mikiya Fujii, and Koichi Yamashita
    • 学会等名
      2015 American Physical Society (APS) March Meeting
    • 発表場所
      San Antonio, Texas, USA
    • 年月日
      2015-03-02 – 2015-03-06
  • [学会発表] 1自由度非断熱系における量子古典対応2015

    • 著者名/発表者名
      藤井幹也
    • 学会等名
      量子論の理論および実験に関する研究会(QUATUO研究会)
    • 発表場所
      高知工科大学
    • 年月日
      2015-01-11 – 2015-01-12
  • [学会発表] 有機薄膜太陽電池の界面における電荷移動の理論的研究2014

    • 著者名/発表者名
      星野聖良,藤井幹也,山下晃一
    • 学会等名
      2014年度電気化学秋季大会
    • 発表場所
      北海道大学
    • 年月日
      2014-09-27 – 2014-09-28
  • [学会発表] PCBM/diketopyrrolopyrrole1e誘導体界面における電荷移動機構に関する理論的研究2014

    • 著者名/発表者名
      藤井幹也,Woong Shin,安田琢磨,山下晃一
    • 学会等名
      第8回分子科学討論会2014
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2014-09-21 – 2014-09-24
  • [学会発表] カーボンナノチューブ・ポリチオフェン誘導体界面における電荷分離過程2014

    • 著者名/発表者名
      西村亮彦, 藤井 幹也, 山下 晃一
    • 学会等名
      第8回分子科学討論会2014
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2014-09-21 – 2014-09-24
  • [学会発表] 有機系太陽電池ドナー/アクセプター界面での電荷移動型励起子2014

    • 著者名/発表者名
      村岡梓,藤井幹也,山下晃一
    • 学会等名
      第8回分子科学討論会2014
    • 発表場所
      広島大学
    • 年月日
      2014-09-21 – 2014-09-24
  • [学会発表] Semiclassical nonadiabatic dynamics based on onverlap integrals: "rigorous" surface hopping and geometrical quantization2014

    • 著者名/発表者名
      Mikiya Fujii
    • 学会等名
      High Dimensional Quantum Dynamics: Challenges and Opportunities (HDQD 2014)
    • 発表場所
      Mittelwihr, France
    • 年月日
      2014-09-02 – 2014-09-06
  • [学会発表] A role of photon absorbing exciplex at organic bulk heterojunctions consisting of diketopyrrolopyrrole derivatives and PCBM2014

    • 著者名/発表者名
      Mikiya Fujii
    • 学会等名
      EMN Summer | Energy Materials Nanotechnology 2014
    • 発表場所
      Cancun, Mexico
    • 年月日
      2014-06-09 – 2014-06-12
    • 招待講演
  • [学会発表] 1自由度非断熱系の幾何学的量子化2014

    • 著者名/発表者名
      藤井幹也,山下晃一
    • 学会等名
      第17回理論化学討論会
    • 発表場所
      名古屋大学
    • 年月日
      2014-05-22 – 2014-05-22

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公開日: 2016-06-01  

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