研究課題/領域番号 |
24750015
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
横川 大輔 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90624239)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 溶媒和理論 / 量子化学計算 / グルコース / RISM / 自由エネルギー |
研究概要 |
H24年度は、イオン液体中におけるセロビオースから5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)への加水分解反応の解明を目指して研究を進めた。その際に、反応過程を①セロビオースからグルコース、②グルコースからHMFへの加水分解に分けて検討を行った。前者に関しては、申請者が既に開発済みのRISM-SCF-SEDD法を用いて、水溶液中、イオン液体中での構造変化、自由エネルギー変化を明らかにした。活性化エネルギーは24.6kcal/molとなり実験値(26.5±2.9kcal/mol)を良く再現した。後者については、反応メカニズムを明らかにするために、水溶液中での検討を行った。その結果、グルコースからフルクトース、フルクトースからHMFへの加水分解についての活性化エネルギーを良く再現することができた。また、得られた自由エネルギーから、フルクト-スへの加水分解反応は速度論的に有意であるが、最終的には熱力学的に安定なHMFへ構造変化することが分かった。これらの結果は、論文投稿準備中である。 バイオマスから有用な物質であるHMFへの加水分解反応は、これまで非常に多く検討がなされているものの、イオン液体中での加水分解反応を理論的に解明した研究は非常に限られている。また、グルコースからHMFへの加水分解反応は、理論的な検討は数多くなされているにも関わらず、実験値を再現したものや、反応物から生成物までの反応メカニズムを明らかにしたものは、申請者が知る限り存在しない。本研究ではRISM-SCF-SEDD法を用いることで、原子・分子レベルで反応メカニズムを明らかにすることに成功した。今後、得られた自由エネルギーを解析するだけでなく、溶媒構造変化を調べることで、イオン液体中での加水分解反応の優位性を明らかにできると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応用面での計画では、イオン液体中でのグルコースからHMFへの加水分解を検討する予定であった。しかし、水溶液中での加水分解を検討したところ、当初想定していた以上に反応メカニズムが複雑であることが明らかになった。また、先行研究を調べたところ、十分に検討されたものが存在しないことが明らかとなった。そこで、イオン液体中での検討を行う前に、水溶液中でのメカニズムの解明を行うことにした。現時点で、ほぼ計算が終わっているので、論文にまとめた後にイオン液体中での検討に進む予定である。H24年度、計画したもの以外に、セロビオ―スからグルコースへの加水分解を水溶液中とイオン液体中での検討も行った。 理論面では、エントロピーを含めた議論を行うため、幾つかの式を導出した。これにより、実験で得られた活性化障壁と理論値を直接比較することが可能になった。また、この式の導出に際し、活性化エネルギーの計算における濃度補正の影響について詳細な検討を行うことができた。この他にも、計算コスト、計算安定性を大幅に向上した新規手法の開発に成功した。 当初予想していなかった問題などが生じたために、幾つかの計算は来年度に持ち越すことになった。しかし、その問題を克服しようと努めた結果、予想していなかった結果を得ることができ、論文投稿の準備も進めることができた。新規に開発した理論も、これまでに得られた計算結果と比較するため、従来法と入れ替えることはすぐにはできないが、より複雑で大規模な計算が必要になった時には利用する予定できると考えている。以上の点からも、ほぼ満足できる結果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、水溶液中でのグルコースからフルクト-ス、フルクトースからHMFへの加水分解について、本年度に得られた結果をまとめることから始める。その後、イオン液体中での計算を進める。計画書にも示してある通り、イオン液体は、揺らぎが大きいアルキル鎖をカットしたモデルで検討を行う予定である。同時に、誘電率的に近いとされているエーテル系の溶媒についても同様の計算を行い、イオン液体特有の性質を導きだしたいと考えている。H24年度に、セロビオ―スからグルコースまでの加水分解について、イオン液体中での検討を行っていることから、これと比較することにより、重要な活性障壁を明らかにしたいと考えている。この加水分解反応は触媒を用いることが非常に有用であることが報告されていることから、金属触媒(Cr触媒)を用いた検討も進める。これらすべてが順調にすすめば、イオン液体を構成する分子が持つ構造揺らぎを考慮した計算も行いたい。 理論面では、H24年度に開発したLR-RISM-SEDDをさらに発展させ、高精度量子化学計算を行えるようにする。これにより、大きな分子や金属錯体を含むような場合であっても、溶液内での高精度量子化学計算が可能になると考えている。また、現在使用している量子化学計算パッケージ(GAMESS)のバージョンは古いことから、H25年度は最新のバージョンに載せる予定である。これにより、最新の量子化学計算手法が使えると期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度は系悪通り、プログラム開発に必要なファイルサーバー等を導入した。この際、数10万円未使用分が生じたため、これをH25年度の予算に組み入れることで、高性能計算機を予定よりも多く購入したいと考えている。ただ、計画書作成時期よりも円安が進行しているため、希望の台数分購入できるかどうか現時点では断言できない。
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