本年度は、(a)本研究課題で使用しているRISM-SCF-SEDD法の信頼性を向上するための理論開発、(b)イオン液体中でのグルコースからヒドロキシメチルフルフラール(HMF)への加水分解反応の総括を行った。以下ではこれらの2点を詳しく説明する。 (a)の理論開発では、これまで着目されることがほとんどなかった分子間の交換反発エネルギーについて、量子化学的に決定する方法を提案した。交換反発エネルギーは溶媒分布の決定に大きな役割を果たしている一方で、これを記述するためのポテンシャルは、過去の研究で経験的に決定されたものを使用していることがほとんどであった。しかし、イオン液体中での反応のように、新規に提案された反応を理論的に解析するにあたり、過去の研究で決定されたポテンシャルをそのまま使用してよい保証はない。そこで申請者は分子間摂動理論に基づき、量子化学的に交換反発ポテンシャルを作成する方法を提案した。これにより、様々な化学反応に含まれる分子と溶媒分子間の交換反発エネルギーを非経験的に決定することに成功した。 (b)の総括では、グルコースからHMFへの加水分解反応で経由する中間体、遷移状態をイオン液体中で計算することに成功した。水中での結果と比較すると、水中では環を保持したまま中間体であるフルクトースに異性化するのに対し、イオン液体中では環が開裂した後にフルクトースへ異性化することが明らかとなった。これらの成果は現在投稿準備中である。
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