研究課題/領域番号 |
24750017
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸 亮平 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90452408)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 開殻性 / 多環芳香族炭化水素 / 励起状態 / ジラジカル / 多参照計算 / 二光子吸収 / 非線形光学 / スペクトル |
研究概要 |
本年度は、開殻多環芳香族炭化水素(PAH)系の光応答物性について、開殻性(ジラジカル因子)と分子構造および光学スペクトル(線形および二光子吸収スペクトル)の形状の間の関係についての研究を行った。また、非対称系の動的第一超分極率についての方法論開発も行った。以下に簡単に結果をまとめる。 開殻PAH系では、基底状態に開殻性を有するため、その電子スペクトルの予測や機構解明のために必要な量子化学計算法の選定が重要である。本年度は、開殻性を考慮可能な多参照理論に基づく電子状態計算法の適用性を検討した。実験により大きな二光子吸収特性を持つことが示された、ジラジカル因子の異なる2種類のジフェナレニルジラジカル化合物の二光子吸収スペクトルを、CASSCF/NEVPT2法に基づき計算した電子状態間の遷移特性から算出した。その結果、スペクトル形状のジラジカル因子依存性に関して、実験で得られた結果を定性的・半定量的に再現した。電子遷移を解析した結果、ジラジカル因子の大きな系では、励起状態間の遷移モーメントが大きくなることで二光子吸収特性が大きくなる機構が明らかになった。これらの結果は2サイトのモデルジラジカル系に対する解析解による結果とも一致し、理論に基づく設計指針の妥当性が示された。本研究の成果を分子科学討論会討論会2012東京にて口頭発表し、その内容が評価され分子科学会優秀講演賞を受賞した。 また、量子マスター方程式動力学法をab initio MO CI法と組み合わせたMOQME法に基づき、閉殻非対称系の動的第一超分極率(第二高調波発生)を計算、解析する方法論を提案し、プログラムに実装した。本手法により、外部振動電場により誘起される電荷密度の非線形応答を可視化し、各原子や各軌道の寄与の解析が可能になった。現在は広範な分子系に適用可能なTDDFT法と組み合わせた手法への拡張を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多参照理論に基づく光学スペクトルの計算については本年度から本格的に取り組み始めた。概要で述べたとおり、実験のあるいくつかの系では良好にスペクトルの形状を再現することが出来た。2年目以降も引き続きこれらの手法の適用範囲を種々の実験値と比較する必要があるが、1年目に得られた結果により方法論の選択に関してはかなりの知見と経験が得られた。これにより、2年目以降に予定している新規開殻分子系の提案に関して今後の新たな進展が期待できると期待できる。 また、量子化学の電子状態計算と量子マスター方程式動力学法を組み合わせた手法によるスペクトルシミュレーションと解析法の開発についても、当初の予定である線形吸収(閉殻・開殻)だけでなく、第二高調波発生(閉殻)についてもプログラムに実装出来た。開殻系における第二高調波発生のプログラムについては現在、理論とアルゴリズムを整備中であるが、当初の予定通りの進捗状況と言える。 以上により、興味深い開殻系への展開のための方法論の整備について、全体としては当初計画の通りの達成度が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
実績の概要で説明したとおり、多参照理論に基づく電子スペクトル計算の適用範囲についての知見が得られたので、これを元にした量子マスター方程式動力学に基づくスペクトル計算・解析手法の開発とともに、当初の予定通り興味深い開殻系の新規設計などへの展開を目指す。このような系では、揺らぎやすい電子状態を有するため、さらに中間スピン状態や多様な酸化・還元状態、多様な幾何構造等多くの制御可能な自由度が増え、より興味深い新現象や開殻性に基づく新たな物性発現の機構解明や新物質設計指針の構築などの研究の展開が見込まれる。 これらの目的の内、特に設計指針の構築に関する部分については、代表者が専門とする理論・物理化学の知識のみではなく、合成化学や測定を専門とする実験家との情報交換が不可欠と考えられる。現在、代表者は高周期典型元素群を始めとする感応性化学種をターゲットとした新学術領域(領域番号2408)の計画班に連携研究者として参加している。この新学術領域では、高周期典型元素群の電子構造に由来する特異な結合様式を持つ化合物の合成と物性評価をターゲットとしており、その中には開殻性を有するものも多く含まれる。これらの分子設計を扱う実験化学者との情報交換による相乗効果で、目標とする新物質設計指針の構築へつなげることが出来ると期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
計算機設備については、巨大な開殻系分子種の最安定構造の探索、基底および励起状態計算と多自由度の動力学計算を行う必要があり、プログラム開発などの環境はすでに整っているが、実際に計算を実行するための計算機クラスタを増強する必要がある。次年度請求予定額に合わせてこれらの計算機設備を増強する予定である。 また、得られた成果をπ電子系の国際会議であるFunctional Pi11(ボルドー)、国内会議である理論化学討論会、分子科学討論会において発表する予定であり、これらの会議への旅費を予定している。また、成果発表としての論文投稿費用にも使用を予定している。
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