研究課題/領域番号 |
24750017
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
岸 亮平 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90452408)
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キーワード | 開殻性 / 多環式芳香族炭化水素 / 励起状態 / ジラジカル / キノイダルオリゴチオフェン / 多参照計算 / 二光子吸収 / 非線形光学 |
研究概要 |
本年度は、実在の開殻オリゴマー分子系であるキノイダルオリゴチオフェンに関して、開殻性と分子構造および光学スペクトルの形状の間の関係についての研究を行った。特に、キノイダルオリゴチオフェンのユニット数(n)と開殻性の指標であるジラジカル因子(y)および三次非線形光学(NLO)特性の指標である第二超分極率(γ)の間の相関関係を議論した。以下に簡単に結果をまとめる。 これまでに芳香族炭化水素系などを中心に開殻NLO分子系の探索を行ってきたが、開殻PAH系は一般に合成が非常に難しく、開殻性の異なる実在系での系統的な研究は困難であった。一方、キノイダルオリゴチオフェンは、古くからキャリア輸送材料として検討から多くの誘導体が合成され、分光学および計算化学に基づく研究から、開殻性を有することが明らかになってきた。しかし、これらの系の開殻性の定量評価や三次NLO特性との関係は未解明であった。オリゴマー分子では、nを変えることで系統的に物性が変化するが、ここでは、それに伴う開殻性の変化に着目した。密度汎関数法に基づいて、これらのnとyとγの関係を検討した結果、本系はn=4-5で大きな三次NLO特性を示すこと、それが中間の開殻性に起因することを、理論計算に基づき明らかにした。一方、分子鎖長の効果も評価した結果、開殻性の変化するオリゴマー系では、中間の開殻性と分子鎖長との両方を指針とすることで、従来の閉殻オリゴマー材料を超えるような著しい三次NLO特性の増大を発現することが示された。本成果は物理化学(材料)系のトップジャーナルの一つである、J.Phys.Chem.Cに掲載された。 本系は、実在分子系であり、本成果に基づいて、合成、測定を行っているグループとの共同研究を開始した。現在、前年度に検討した多参照理論に基づく計算法などにより、これらの線形および二光子吸収スペクトルの検討を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までは、PAH系を始めとする種々の実在分子系をターゲットとして、構造ー光学応答特性の相関を明らかにすることを試みてきたが、これらの系では、開殻性を変化させるためには、構造や電子数、原子数が異なる系を対象にする必要があった。これにより、開殻性との相関関係を明らかにするための系統的な研究が難しかった。本年度はキノイダルオリゴチオフェンという実在系のオリゴマー分子に着目し、静的な応答を検討したが、その結果、本系が上記の系統的な研究の目的に合致した系であることが明らかになった。また、静的応答の範囲では、閉殻オリゴマー系に比べて著しい増大が見られることが明らかになった。これらの成果を論文および国際会議で発表した結果、本系の合成、測定を行っている国内外の研究者との共同研究を開始することが出来た。この共同研究により、本課題の目的の一つである実在系の線形および非線形光学スペクトルの理論計算の結果に対する、実験サイドからの詳細な検討が可能となった。このことから、興味深い開殻系への展開のための整備について当初計画の通りの達成度が得られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
実績の概要で説明したとおり、キノイダルオリゴチオフェンを始めとする各種実在開殻分子系について、実験からの知見が得られる状況にあるため、多参照理論を元にした量子マスター方程式動力学に基づくスペクトル計算・解析手法の開発とともに、より興味深い開殻系の新規設計などへの展開を目指す。 これらの研究の推進は、理論化学のみではなく、実験家や物理の研究者との情報交換が必須と考えられる。実際、多参照理論に基づく計算法などにより、これらの線形および二光子吸収スペクトルの検討を開始している。また現在、高周期典型元素群を始めとする感応性化学種をターゲットとした新学術領域(領域番号2408)の計画班に連携研究者として参加しており、各種の開殻化合物を扱う実験化学者との情報交換による相乗効果で、目標とする新物質設計指針の構築へつなげることが出来ると期待される。また、26年度よりグラフェンなどの層状物質を扱う新学術領域(領域番号2506)の公募研究に課題が採択された。この課題では、開殻性を示すナノグラフェンの多層構造における分子間相互作用と開殻性、光応答特性の関係を明らかにする予定であるが、物理系の研究者との情報交換を含め、本研究課題との相乗効果が期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度は、前年度までに購入したデータ記憶媒体(HDD)の劣化が予想されるため、そのための金額を最終年度に一部計上して使用することとした。 研究データを保管するためのデータ記憶媒体(HDD)を購入し、メモリ増強などを含めた計算機の一部バージョンアップを行う予定である。
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