研究実績の概要 |
局在化ジラジカルであるシクロペンタン-1,3-ジラジカル構造を有する中間体の、化学・電子構造と寿命との相関についての実験的研究が行われており、C2位置換基Xの導入により、一重項ジラジカル中間体の速度論的安定性が増大することが明らかになっている。この結果は、この化合物の基底状態の開殻性が置換基により制御されることを示している。本年度は実験家との共同研究により、シクロペンタン-1,3-ジラジカル化合物の開殻性と光学応答特性との相関を理論計算により検討した。その結果、置換基XがOHやFといった、長寿命化を導く置換基の導入により開殻性が中程度となること、その結果として三次非線形光学(NLO)特性の著しい増大が得られることが明らかになった。一方で、線形な分極率にはそのような増大は見られなかった。以上の結果より、基本的なジラジカル骨格である1,3-ジラジカル化合物の構造-光学応答特性相関が見出された。また、このことは、中間的なの結合状態を示す反応中間体の検出などへの応用可能性が示唆された。以上の結果は、J. Phys. Chem. Aに掲載され、今後の開殻性化学種の電子構造を非線形光学スペクトルにより明らかにするための基礎研究となると期待される。 また、モノラジカル種であるフェナレニルラジカルからなるπ-πスタック型一次元集合体についても高精度励起状態計算を実行し、分子間に中間的な結合を有する二量体の二光子吸収スペクトルの第一ピーク値が、縮環共役型のジフェナレニル化合物の第一ピーク値に匹敵する可能性を見出した。本結果については四量体でのさらなる増大の結果と合わせて、日本化学会春季年会にて発表した。
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