研究課題/領域番号 |
24750020
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
須磨 航介 鹿児島大学, 教育学部, 准教授 (10506728)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 分子分光 / ラジカル分子錯体 / CRDS / C6H7+ / ラジカル |
研究概要 |
本年度研究では①CRDS分光器の改良②新規ラジカル分子錯体の探査および③分子軌道計算による理論研究を行った。それぞれの実績の概略を記す。まず、①では色素レーザーのグレーティングを二段設置し、光源の高分解能化を行った。本研究では特に回転定数の小さな錯体を目的分子とし、また微細構造にはラジカル錯体の電子状態の変化などの情報が含まれることから光源の高分解能化は本質的な重要性がある。簡単なラジカルの分光によるチェックでは、0.05cm-1以上の分解能が得られたことを確認した。これを用い②ではラジカル分子錯体Ar-CNのA-X遷移の探査を行った。高精度の理論計算等の結果を用い該当の領域の探査を行い、いくつかの放電生成物による吸収スペクトルの観測に成功したが、観測分子種の同定には至っていない。次年度はポンプによるノイズの軽減、より信号の強い領域の観測、ラジカルの生成効率の向上などにより分子種の同定を行いたい。③では特にHO3ラジカルの分子軌道計算を行った。HO3の分子軌道計算では動的、静的電子相関両方を十分に考慮することが必須であるため、MRCI計算以外の計算手法を適用できない。しかし、Molproを用いたCASSCFでは計算結果に矛盾が生じるなど問題があった。本研究では活性空間を拡張するなど幾つかの工夫を行い、この問題を解決することができた。計算結果は実験の回転定数を誤差0.1%で再現し、振動数を誤差11cm-1以下の高い精度で再現した。MRCIによるPESが極めて高い信頼性を持っていることがうかがえる。このPESから振動回転定数を計算し、信頼性の高い平衡構造を導き出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分光器光学系の改良については、本年度目標を概ね達成できた。スペイシャルフィルタの導入などにより、分光器のノイズの低減にある程度成功した。しかし、ノイズの主な原因は光学系よりむしろポンプなどのメカニカルな部分にあることが分かり、これらの対策は次年度以降の課題となった。ラジカルの生成効率について、新規のスリットノズルを用い、いくつかのラジカルでテストを行った。現状では大きな成果は得られていないものの、ノズルの形状やガスの量、タイミングなどの条件を出すことで、将来的には錯体の検出に十分な生成効率が得られると期待される。本年度予定していた放電後混合型ノズルについてはレーザーの故障等による予算面の問題で作成が完了していない。また、分子種の同定は行っていないものの新規の分子種による吸収スペクトルを観測にも成功している。 本研究ではラジカル錯体等の計算に対し、大規模な計算機資源が必要である。本年度の研究でこれをほぼ用意することができた。これを用いてHO3の理論研究を行った。HO3の計算はCASSCFの問題でMRCI計算が行えなかったが、本研究ではこの問題を解決したことで、概ねHO3の計算に関する研究を完成させることができた。MRCIによる計算結果は既報の実験値の殆どの結果を極めて良い精度で再現した。この結果を基にHO3の正確なゼロ点エネルギーや平衡構造を見積もることができた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究で課題となった分光器のノイズの対策を行う。特にポンプの振動によるノイズの影響を除くことで、かなりの効果が得られると期待している。最終的にノイズレベル1ppm/pass程度に抑えることができれば、錯体の検出も十分可能となると考えている。これと並行しノズル開発を進め、新規のラジカル錯体の検出を目指す。錯体のスペクトルの解析にあたっては詳細な分子軌道計算が必要であり、必要であれば計算機の補充を行う。外部の研究者とも協力し、高精度の分子軌道計算の結果を組み合わせることでラジカル錯体の電子励起状態でのダイナミクスについて詳細な研究を行う。初年度作成できなかった放電後混合型ノズルを完成させ、C6H7+の検出を試みる。CRDSでの検出が困難である場合にはこのノズルをFTMWなど他の高感度の分光器による検出も試みたい。C6H7+の観測に成功した場合、理論分光研究者の協力を得てその複雑な振動準位構造について理論的な研究を行い、水素移動のダイナミクスに関する詳細な知見を得たい。また、PAHはDIBの候補としての可能性が指摘されており、CRDSスペクトルの結果を基に具体的な提案ができると期待している。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度末に課題遂行に必要な励起YAGレーザーが故障した、修理には約50万円が必要となった。業者との協議の結果、年度内での修理が不可能であったため、急遽予算を繰越し、次年度に修理代として使用することとした。次年度、本繰越予算が使用可能となり次第修理を行う予定である。このため研究計画の遅延はほぼ起こらないと考えている。したがって、次年度の研究費の使用に関しては変更の予定はない。
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