本研究では主に①パルス放電ノズルを組み合わせたCRDS分光器の改良、②新規ラジカル、ラジカル分子錯体の探査、③ラジカル、ラジカル錯体の高精度分子軌道計算を行った。①では(A)装置の高感度化、(B)ノイズの低減、(C)光源の波長分解能の向上を行った。(A)では実験条件の最適化、新規ノズルの作成によりラジカルの生成量を増やすことで従来よりも強い吸収スペクトルを観測することができた。(B)では光学系の改善等により幾分の改善はあったもののノイズを目標とする1ppm/pass程度まで抑えることはできなかった。ノイズの大部分は放電時にのみ生じるノイズであり、この対策が今後の研究の課題となった。(C)ではDGOを導入することで波長分解能は最も良い波長域で0.05cm-1程度まで改善できた。しかし本研究で対象とする錯体など回転定数の小さい分子種のスペクトルの観測にはもう少し分解能の改善が必要であった。幸い来年度さらに高分解能の色素レーザーが導入されることになり錯体等については再度実験を行う余地がある。②ではAr-CNの探査を行った。CNのA-X遷移近辺を広範囲に渡って探査を行い、CNで帰属ができない遷移を多く観測したが現在までのところ明確に錯体に帰属できる遷移は観測できていない。また同様の条件でH2O-CN錯体についても探査を行った。H2O-CN錯体は水素結合程度の結合エネルギーを有し、Ar-CNより生成が容易であると期待している。回転構造の分解されていないバンドが観測されたが明確な帰属には至っていない。③ではAr-CN及びHOOOラジカルの第一電子励起状態について詳細な計算研究を行った。HO3の第一電子励起状態の分子構造が対応する閉殻種であるH2O3とよく類似することが分かった。
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