まず24年度に構築した液体薄膜(液膜)発生装置の改良を進めた。テラヘルツ(THz)分光実験では、空気中の水蒸気による吸収の影響を除くために分光装置内を乾燥空気で置換する。しかし、液膜を試料とした実験では、液膜を受ける容器からの蒸気が影響して乾燥空気条件への移行が不十分となる問題が生じていた。問題解決のため、液受け容器を液膜直下でなく、漏斗とチューブを用いて分光装置外側に配置した。これにより、水蒸気の影響がないTHz波形の取得に成功した。さらに、目標である時間分解実験に向けた膜厚可変な液膜装置の開発を行った。ここでは、二本のノズルから射出した液体ジェットを衝突させることで、液膜を発生させる装置を構築した。この装置では衝突角度を調整することで、膜厚の制御が可能である。まず安定な液膜を得るための実験条件を検討した。次に、得られた液膜の膜厚制御範囲を探るため、THz分光法により膜厚の正確決定を行う手法を確立させた。ジェット衝突角度を変えて膜厚を評価したところ、約50から120μmの範囲で制御できることが示された。 次に、ヨウ化物イオンを光励起後の溶媒和電子生成に伴うTHzスペクトル変化の時間分解検出を試みた。しかし、光誘起変化の検出には至らなかった。これは、24年度に行ったイオン水溶液の研究でも観られたように、スペクトルに対する負電荷の違いの影響が小さいことに起因する。そこで計画を修正し、純液体から生じた電荷の検出を試みた。エチレングリコール液膜を生成し、高強度フェムト秒レーザーで誘起される液中プラズマをTHz光で検出する試みに挑戦した。しかし、この試みも現段階では成功には至っていない。長波長であるTHz光は集光するのが難しく、励起光との空間重なりを効率的に得るのが実験的に難しかったことが要因である。今後実現に向けては、THz分光用の光学機器などの技術発展の必要もあると考えている。
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