本研究の目的は、生細胞内における上皮増殖因子受容体(EGFR)の二量体化とクラスタリングのメカニズムの解明である。がん細胞内で過剰発現したEGFRは過剰な細胞シグナル伝達と、制御出来ないがん細胞増殖を引き起こすという問題点がある。そこで、上述したメカニズムを解明することで、過剰ながん細胞増殖を制御する方法を探る。EGFRは二量体以前の状態(EGFR-EGFR)で存在することが知られており、シグナル伝達二量体群(EGF-EGFR-EGFR-EGF)は各EGFRと2つの上皮増殖因子(EGF)ホルモンの結合により構成されている。本プロジェクトでは、CdSe/ZnS量子ドット(QDs)あるいは量子ドットをベースとした蛍光磁気ナノ粒子をコンジュゲートしたEGFホルモンを使用し、過剰発現したEGFRでのヒト肺上皮腫瘍細胞株H1650を蛍光ラベル化した。次に、個々の細胞内での単一分子の時間ゲートおよび輝度ゲート蛍光イメージに応じたEGFRの二量体化とクラスタリングの動態を調べた。初期段階では、約0℃でラベリングした細胞内において、糸状および葉状仮足部分でEGF-EGFR-EGFR(ヘテロ二量体)とシグナル伝達二量体を等しく制御した。しかし、温度が室温近くまで上昇しラベリング後の時間が経過したため、シグナル伝達二量体の数が細胞の背部および腹部の表面で増加した。これは、シグナル伝達した二量体およびヘテロ二量体が細胞表面に沿って輸送され、ヘテロ二量体を消費してシグナル伝達二量体が形成されたことを意味する。また、EGFRの小クラスタが約15分で出現し、細胞内取り込み前約30分で数、量ともに増加した。実験の結果、EGFRヘテロ二量体のロッキングによるヘテロ二量体からシグナル伝達二量体への形成ムラ防止およびEGFホルモンの抑制によって、EGFRを用いて無制御シグナル伝達を抑制できることが分かった。
|