研究課題/領域番号 |
24750031
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古山 渓行 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30584528)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機化学 / 典型元素化学 / 機能性色素 / オリゴへテロール / フタロシアニン |
研究概要 |
安定に取り扱い可能なジアミノチオフェン誘導体をビルディングブロックとして、機能性π共役系の構築に関する合成研究を行い、新規蛍光色素の開発に成功した。ヘミポルフィラジン類縁体の合成法を参考に、ジイミノイソインドリンとの縮合反応を検討した。はじめに最も単純な1 : 1付加体について、選択的な合成法の開発に取り組み、生成物の構造的知見を集めたところ、当初の想定とは異なる、チエノピリミジン環が特異的に生成していることが明らかとなった。この結果を元に反応機構を再考察した結果、ジアミノチオフェンの安定化に寄与する電子求引基(シアノ基)が反応に関与していることが分かった。そこで電子求引基をエステル基へ変えることにより、当初目的としたAza-BODIPYコア置換体の配位子ユニットの合成に成功した。なおこれらの化合物は全てX線結晶構造解析を用いて最終的に同定している。 1 : 1付加体における特異な反応が明らかになったので、これらの化合物の詳細を明らかにすべく化合物のホウ素錯体化、金属錯体化を検討した。現在のところ、Aza-BODIPYコア置換体配位子に対する錯化は最適な条件が見いだせておらず、次年度の課題である。一方、チエノピリミジン環を持つ化合物は、ホウ素と特異的に1 : 1錯体を作ることが分かり、これが高い蛍光量子収率(Φ > 0.8)かつ大きなストークスシフトを有する蛍光分子であることを明らかにした。 そこでこの蛍光分子にスイッチング能を持たせるべく、アミノ基の官能基化を行なった。結果アントラセンをはじめとした発色団をSchiff塩基の形で導入することで蛍光が消光すること、この部位は酸により容易に切断され、元の蛍光を回復することが分かり、蛍光センサーとして利用可能であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最も単純な付加体として最初に検討したジアミノチオフェン-ジイミノイソンイドリン 1 : 1付加体が予想を超える挙動を示すことが分かったので、本年度当初行なうはずであった他の元素置換体や多重付加体の合成法の開発を一旦中止し、この化合物の物性評価を行なった。具体的にはX線結晶構造解析を中心とした構造解明、ホウ素錯体の合成、官能基化による蛍光スイッチング能の付与である。 このうち構造解析では、最終的に新規なチエノピリミジン誘導体が生成していることを明らかとし、反応機構の考察により、ジアミノチオフェン上の電子求引基を選ぶことで生成物の骨格を選択的に作り分けられることを示した。次にホウ素錯体については、チエノピリミジン誘導体について、新規な配位モードの化合物ができることが分かり、これが強い蛍光を持つことが分かった。またこの化合物は通常の蛍光性ホウ素錯体とは異なり大きなストークスシフトを持つ。NMRをはじめとした分光学的手法により、これが元素(硫黄)の特性を反映したものであることを明らかとした。この化合物のアミノ基末端を修飾することにより蛍光のON-OFF制御ができることが分かり化学センサーへの応用について、取りかかりを示すことができた。 以上のように当初の予定とは異なる進展があったものの、全てはじめて見いだされた化合物・物性であり、それはこの化合物群の未開拓性によるものであると言える。次年度以降、この特性を元に更なる物性探求を行なうことで、より大きな発展が見込めると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度見いだされた環化反応および、化合物のユニークな蛍光特性を発展させ、以下の2点について重点的に研究を行なう。すなわち、1. 多重付加反応による高度縮環化合物の合成、2. ホウ素錯体における実用的な化学蛍光センサーの開発、である。 このうち1.については、チエノピリミジン環形成反応が繰り返し起きるとの仮定のもと、シアノジアミノチオフェン-イソインドリンの1 : 2縮合反応の検討を行なう。現在想定している反応機構によれば、生成物は4つの環が縮合した平面分子であり、このような化合物は導電性をはじめとした材料としての様々な物性を発現することが期待できる。 また2.については、はじめにホウ素が蛍光特性に与える影響を調べることが急務である。現在のところ、化合物のホウ素の具体的な結合様式が明らかになっていないことが問題であり、X線結晶構造解析などによりこれを明らかとする。また、元素が蛍光特性に与える影響をより詳細に明らかにすべく蛍光ダイナミクスの測定・解析を行ないたい。平行して、官能基化の検討を行なう。本年度はモデルとして容易に合成可能なSchiff塩基を用いたが、アミノ基における一般的な保護基を用いることで、特定の条件(酸・塩基・遷移金属反応・酸化還元など)にのみ切断可能になることが期待できる。現在のところアミノ基上の置換基の有無と蛍光特性には良好な相関があると期待できるため、これにより実用的な蛍光OFF-ONセンサーの応用を目指す。 以上が次年度以降の基本的方針であるが、未知の部分も多い分子のため、想定外の進展が見られる可能性は十分あると考えている。その際には進捗状況を勘案しつつ、柔軟な研究展開を行ないたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、平成25年度請求額とあわせ、平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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