研究課題/領域番号 |
24750039
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
伊熊 直彦 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70505990)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | フラーレン / 反ブレッド則 / エナミン / 酸触媒反応 / 酸化反応 / 反応機構解析 / 分子軌道計算 |
研究概要 |
フラーレンを構造修飾する際の課題として、副生成物が生成する反応が多くその分離・精製が困難という点があげられる。本研究課題では、反応性の高いanti-Bredt二重結合を橋頭位に有するフレロイド・アザフレロイドに着目し、この二重結合の反応性を評価し、高い位置選択性を有する反応探索を行う。 まず、フレロイドとmCPBAの反応を行ったところ、橋頭二重結合への選択的な酸化反応が観察され、m-クロロ安息香酸が付加したエステル生成物が得られた。 次に、アザフレロイドの酸触媒芳香族付加反応を行った。アザフレロイドは、橋頭二重結合と架橋窒素が隣接したエナミン構造を有する。それゆえ、求電子剤である酸の攻撃が二重結合/架橋窒素で競合しうる。反応生成物を分析したところ、窒素の塩基性が大きい場合は窒素への攻撃が、小さい場合には二重結合への攻撃が優先し、それぞれ異なる数の芳香族付加生成物を与えた。これらの結果から、アザフレロイド類の”ambident”な反応性が明らかになった。 また、アザフレロイドの合成を効率的に行うため、中間体トリアゾリノフラーレンの脱窒素機構解析を行った。その結果、加熱条件下においては協奏的脱窒素機構により5,6-架橋が形成し、アザフレロイドが選択的に生成することが判明した。一方、反応系中にトリフルオロメタンスルホン酸などの強酸が存在すると、酸の窒素への付加を経て脱窒素し、段階的な脱窒素と炭素-窒素結合形成が起こる。このとき6,6-結合形成が優先するので、構造異性体であるアジリジノフラーレンが選択的に生成することが判明した。さらに、アルキル基などの置換基が存在する場合は、脱窒素過程で分子自由度が減少し、フラーレン表面と置換基との相互作用の存在を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の主要な成果は、(1)フレロイドのmCPBA酸化反応、(2)アザフレロイドの酸触媒芳香族付加反応、(3)アザフレロイド・アジリジノフラーレン生成機構の解明、の三つである。 1に関しては、応募時の予備実験において橋頭位への選択的なエステル化反応が得られていた。その後分子軌道計算を行ったところ、通常の平面型オレフィンとmCPBAの遷移状態は協奏的機構を示唆するbutterfly型で有った一方、フレロイドのanti-Bredt二重結合とmCPBAの遷移状態は非対称な遷移状態が得られ、固有反応座標計算によりOH基とmクロロ安息香酸が段階的に付加する機構が明らかになった。上記の理論計算の結果は、拗れた二重結合特有の高反応性を解明した数少ない例であり、フラーレン化学だけでなく理論化学・反応化学への波及効果も高いと思われる。 2に関する当初の計画では、窒素の塩基性の大小によって窒素への攻撃/架橋二重結合への攻撃が競合することを予想していたが、実際の反応では窒素への攻撃後の開環反応や、架橋二重結合への攻撃後の芳香族多付加反応が観察され、両者で全く異なる生成物を与えた。この事実は、アザフレロイドの置換基を変化させるだけで、芳香族の付加数を制御できる可能性を示唆しており、付加数制御が困難な場合が多いフラーレンの酸触媒芳香族付加反応を大きく進展させうる。 3に関しては、当初は(2)で使用するアザフレロイドの生成収率を向上させる条件探索中に、酸触媒添加時に異性体アジリジノフラーレンが生じることを偶然発見した。反応速度解析と分子軌道計算により、なぜ酸触媒条件と加熱条件で生成物が異なるかを明らかにし、アジリジノフラーレン/アザフレロイドの作り分け方法を確立した。これは当初計画からは予想しなかった研究成果であり、これらの化合物を用いた太陽電池や医薬等へ応用研究をより活発にすると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
過酸反応については、対象をアザフレロイドに拡張する。フレロイド同様の生成物が生じるか、あるいは窒素攻撃に起因する他の生成物が得られるかを明らかにする。過酸が窒素を攻撃すると仮定した場合、ニトロソ基生成反応あるいはニトロソ官能基のフラーレン骨格からの脱離反応を起こす可能性がある。後者の場合、これまで見られなかった酸化条件によるフラーレン再生反応であるので、置換基効果や反応速度測定、分子軌道計算により反応機構解析を行う。また、過酸以外にもDDQや金属酸化剤なども使用し、アザフレロイドへの酸化反応を起点とした新規置換基付加反応を探索する。 アザフレロイドの酸触媒反応については、引き続き詳細な反応機構解析を行う。嵩高い置換基・水素結合性の置換基など、より多様な置換基の導入を行い、窒素への攻撃/二重結合への攻撃を規定する要因が窒素の塩基性以外にもないか考察する。また、多付加生成物の構造同定を精密に行うため、単結晶作成とX線結晶構造解析を行う。 アザフレロイド生成の反応機構については、置換基効果にまだ未解明な部分がある。置換基の電子求引性・供与性に加え、芳香族置換基とフラーレン表面とのπ/π相互作用や、アルキル置換基のCH/π相互作用などが関与している可能性がある。そのため、精密な反応速度解析による活性化エンタルピー/活性化エントロピーの算出と、分散力を考慮した精密な分子軌道計算により、これらの置換基とフラーレン表面との相互作用の有無を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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