フラーレンを構造修飾する際の課題として、副生成物が多種生成する場合が多くその分離・精製が困難という点があげられる。本研究課題では、反応性の高いanti-Bredt二重結合を橋頭位に有するフレロイド・アザフレロイドに着目し、この二重結合の反応性を評価し、高い位置選択性を有する反応探索を行う。 本年度はまず、アザフレロイドの酸触媒芳香族付加反応について、より詳細な条件検討と生成物の分析を試みた。その結果、チオフェンなどのヘテロ環や、ピレンなどの芳香族多環化合物の導入も可能であることがわかった。また、フェニルアザフレロイドに関しては芳香族5重付加体が得られたが、X線構造解析により本法の生成物は従来の五重付加体と比べ「広がったシャトルコック」構造をとることが分かり、異なるパッキングと電子特性を得る可能性がある。 次に、アザフレロイドの酸化反応を試みたところ、窒素架橋の酸化に伴う脱アミノ化反応によりフラーレンが生成し、フレロイドで見られたようなエステル生成物は生成しなかった。アザフレロイドに対して橋頭二重結合に置換基を選択的に付加させ、本法を用いてアザ架橋を除去できれば、位置選択的フラーレン誘導体を得る有力な手法となり得る。 さらに、前年度のトリアゾリノフラーレンの反応の発展を検討し、トリアゾリンの窒素をカチオン化したトリアゾリウムイオン骨格をフラーレンに導入できないか試みた。トリアゾリノフラーレンの直接的アルキル化は脱窒素反応が競合し、トリアゾリウム塩の生成は困難であったが、トリアゼンカチオンの協奏的付加反応によりトリアゾリウムフラーレンの合成に初めて成功した。この化合物はペリ共役によりカチオンがフラーレンπ電子と軌道相互作用し、電子受容性の上昇した新規イオン性フラーレンと判明した。
|