アミド基は、合成は比較的容易であるが、高い安定性を有するため官能基変換が難しい。自由自在にアミド基の官能基変換が可能になれば、生物活性アルカロイドの実用的な合成法になる。本研究では、ジルコニウム試薬の特徴を利用したアミド基への直接的な求核付加反応の開発を目的とした。本反応は、反応不活性なアミドのカルボニル基に対し、高い官能基選択性を有しながら、わずか1工程で2つの異なる求核剤を付加できる。また、開発した反応が、真に実用的な反応である事を示すため、生物活性アルカロイドの全合成へと応用する。 本年度は、第三級アミド・第二級アミド・第三級アミドに対する官能基選択的かつ直接的な求核付加反応の開発に成功した。エステルなどアミド基よりも反応性が高いとされる様々な官能基を全く損なう事なく、アミド選択的に求核付加反応が進行した。また、この高い官能基選択性を維持したまま、様々な有機金属試薬が利用できることがわかった。 開発した求核付加反応の有用性を証明するため、複雑骨格を有するアルカロイドの効率的全合成に取り組んだ。まず始めに、ヤドクガエルの皮膚抽出物から単離され、ムスカリン拮抗作用を有することが知られるゲフィロトキシン、ならびにその類縁体であるパーヒドロゲフィロトキシンの効率的全合成を達成した。続いて、抗咳効果・抗寄生虫活性・抗結核菌活性など多様な生物活性を示すアルカロイド群であるステモナ類の合成に取り組み、ステモナ類の代表的な天然物であるステモアミドの全合成を達成した。
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