研究概要 |
配向基を利用した芳香族化合物のオルト選択的な炭素-水素結合の官能基化は、直接的かつ高選択的であるため有機合成において重要な反応である。このような反応の触媒にはPd、Ru、Rhなどの後周期遷移金属が主に用いられているが、前周期遷移金属を用いた例はほとんどなかった。そこで、芳香族化合物の基質一般性の拡張を目指し、従来の後周期遷移金属触媒では適用できないアニソールなどの芳香族化合物について3族の遷移金属である希土類金属を触媒に用いてオルト選択的アルキル化反応の検討を行った。 ペンタメチルシクロペンタジエニル配位子をもつ希土類ジアルキル錯体と[Ph3C][B(C6F5)4]との反応により生成するカチオン性の希土類モノアルキル錯体を触媒に用いると、スチレンなどのアルケンによりアニソールのオルト位選択的にアルキル化が進行した。本反応では、モノアルキル化が選択的に起こり、ジアルキル化は見られなかった。また、アルケンにより触媒の選択が重要であり、反応性の高いスチレンではイットリウム、ガドリニウム錯体が高い選択性を示した。一方、比較的反応性の低い1-オクテンのようなα-オレフィンでは活性の高いスカンジウム錯体が有効であった。2置換オレフィンやアルキンは本反応には適用できなかった。 アニソール類の一般性については、FやIなどのハロゲン-炭素結合やアリルなどの炭素-炭素二重結合をもつものにも適用できることがわかった。一方、オルト位にメチル基をもつ2-メチルアニソールを反応させると、オルト位の芳香環のアルキル化はほとんど進行せず、メチル基の炭素-水素結合のアルキル化が起こった。この場合にも、メトキシ基への配位が重要であり、2,4,6-トリメチルアニソールはパラ位のメチル基では全くアルキル化は進行せず、オルト位のメチル基のみでアルキル化が進行した。
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