本研究では環境応答性を有する発光性金属錯体を用いて、メゾスコピック領域での集積化を試み、これまでほとんど評価、定量されてこなかった光エネルギーダイナミクスの量子サイズ効果を解明するべく、研究を展開してきた。具体的には、三重項励起状態から強いリン光を示す、トリスビピリジンRu(II)錯体や金属間相互作用の変化に敏感に応答するジイミンPt(II)錯体に対して配位官能基を修飾し、配位高分子化反応をモジュレーター等により制御することで、結晶子サイズをメゾスコピック領域に限定し、その光物性がどのように変化するのかを評価した。 Pt(II)錯体系においては、補助配位子に両座配位子チオシアン酸を導入すると、蒸気によって劇的な色変化と発光のON-OFFスイッチを伴いながら結合異性化を示す非常に興味深い錯体の合成に成功し、光によってもその結合異性化挙動を制御できることも見出した。 Ru(II)錯体からなる配位高分子系では、配位高分子化イオンによって構造次元性の異なる多孔質フレームワークが形成され、そのナノ細孔は水やメタノールといったサイズの小さな高極性分子の吸蔵-放出にともなって、再生-崩壊を示すことを見出した。注目すべきは、配位モジュレーターを用いて500nm程度の配位高分子ナノ粒子にすると、分子やバルクを大きく上回る光増感特性を示す点である。光励起から電子移動に至る過程において、メゾスコピック領域に特徴的なサイズ効果が存在する可能性を示唆しており、その基礎学理を解明することは、今後の配位化合物の光化学の発展に大きく資するものと思われる。
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