研究課題/領域番号 |
24750050
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
星野 哲久 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (30551973)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 分子磁性体 / 分子強誘電体 / マルチフェロイック / 固体分子ローター |
研究概要 |
本研究では強誘電性を示す固相超分子ローターを導入した金属錯体を多重集積化することで、強誘電性と強磁性が強くカップリングした交差型マルチフェロイック物質の創出を目指している。今年度は大きな磁気異方性をもつルテニウム二核錯体に種々の分子ローターを導入した錯体を合成し、その誘電特性について検討を行った。 アダマンタンカルボン酸およびその誘導体をローターとして導入したルテニウム(II,III)二核錯体の粉末サンプルは常温付近で巨大な誘電応答を発現した。結晶溶媒が部分的に揮発し、残りの溶媒分子とアダマンチル基の協調的な回転運動が誘起され、巨大誘電応答を発現したものと考えられる。磁化率測定によりこれらの錯体が大きな基底スピン多重度と磁気異方性をもつことを確認した。一方で分子ローターの固体内回転運動を子細に検討するためには、粉末サンプルではなく単結晶での誘電測定が必要であることも判明した。そこで既設の誘電率測定装置について様々な改良を行った結果S/N比およびバックグラウンドノイズの大幅改善に成功し、微小単結晶サンプルの精密誘電率測定を可能にした。 良質な単結晶サンプルについて再度誘電率測定を行ったところ溶媒揮発に伴う巨大誘電応答は消失し、代わりにローターの回転運動に由来する誘電緩和異常が観測された。電気陰性度が高いフッ素基をローターに導入した錯体では110~170Kの範囲で周波数依存性を伴う誘電異常が観測された。アダマンタン単体の柔粘性転移温度は178Kであり、それより遙かに低い温度で異常を示したことは非常に興味深い。一方、ローターに極性を持たない錯体、およびヒドロキシル基をローターに導入した錯体では異常は現れなかった。この挙動は単結晶X線構造解析によって確認された。以上の検討により交差型マルチフェロイック錯体の実現に必要な磁性分子ローターユニットが得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究によって分子ローター部の回転挙動の解明、および設計指針の確立についてはほぼ十分な成果を得た。具体的には磁気異方性が大きく、大きなスピン他重度を持ち、さらに110Kという低温でorder-disorder転移を示す磁性ユニットの合成に成功した。その一方で架橋配位子による磁性ユニットの集積化については、様々な集積体の合成を行っているものの、まだその分子構造を明らかにすることができておらず、現在反応条件を検討中である。 今回副次的に、アダマンタンカルボン酸を分子ローターとした場合、order-disorder転移温度が単なるアダマンタンの転移温度を大きく下回ることが判明した。これについては現在論文投稿を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度で得られたビルディングユニットを集積化した磁性体の合成、およびその分子構造の同定を最優先に行う。これまで種々の集積体の合成を試行したものの、生成物の結晶性が低いためX線散乱データが得られないことが研究の障害になっている。反応条件の最適化を行い、結晶性の高い集積化錯体の合成を行う。具体的にはカウンターイオンや反応溶媒・架橋配位子について、あらゆる組み合わせを網羅する。 結晶性の高い集積化錯体が得られれば、単結晶X線構造解析・粉末X線データのRietveld解析について検討する。粉末X線データの測定は現有設備(Rigaku RAPID-II Cu-Kα)でも可能であるが、必要に応じて外部での依頼測定・分析についても考慮する。 集積化錯体の構造が得られれば、磁性ユニットの次元性結晶構造による磁性と、分子ローター部のダイナミクスによる誘電性の相関について詳細な分析が可能になる。分子ローター部のさらなる最適化・架橋配位子の修飾などによって、分子性化合物初の交差型マルチフェロイック実現に向けて最善を尽くす。
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次年度の研究費の使用計画 |
錯体合成の試薬代・ガラス機器、誘電特性評価用の金線・ペースト類、磁気特性評価の共通機器使用料、出張測定実験等の諸経費を中心に使用する予定である。 前年度は強誘電評価用の高圧電源装置購入費を計上したが、サンプルを薄膜化することで低電位でもある程度の強誘電性評価が可能であることが判明したため、導入を見送った。 昨年度は誘電測定において、実に多くのノウハウを蓄積することができた。単結晶測定の重要性と、そのようなバルクサンプルでは1kVを超える高電圧の印加が必要であることも明らかになった。今年度も高電圧電源装置の導入について再度検討する。 国内学会において積極的に研究成果をアピールするため、出張旅費を計上する。国際学会についてはその有意性を十分検討した上で参加する予定である。
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